爺ヶ岳冷尾根

■日時 4月27日(土)~ 29日(月)

■場所  爺ヶ岳冷尾根

■目的  雪稜クライミング

■メンバー  S山さん、ayaさん、タナミー(記)

■天候  4/27 吹雪、4/28 晴れ、4/29晴れのち曇り

■タイムテーブル

4/27  03:00大谷原駐車場08:20 > 09:30冷尾根取り付き(第3堰堤下) > 15:30幕営地(1700m付近)

4/28 03:30幕営地06:00 > 07:15冷尾根1971m地点 > 10:00冷尾根2045m点 > 13:00冷尾根と北稜の略奪点(2400m付近) > 17:30北稜との合流点2560m(幕営)

4/29 04:00幕営地07:00 > 07:30主稜線2631m地点 > 07:45赤岩尾根との合流点 > 12:45赤岩尾根取り付き > 13:50大谷原駐車場

■記録 タナミー

4月の10日台の記録がちらほらあったが、5月GWはなかった。二日間でいけるからかと考えていたが、間違っていた。ひと月弱遅いと雪の量が少なくなり、ところどころで難易度があげていた。

尾根のなかでもちょっと張り出しているところやブッシュ立木が多いところは、シュルンドが開いていて、足を乗せて加重したら崩れるのではないかと思わせるくらいの厚みだった。そんな箇所ではロープを出していったので時間がかかった。

一番の問題点は冷尾根と北稜との略奪点にある雪壁だった。40年のキャリアのS山さんが、素直に「悪い」というくらいによくなかった。

1日目。前夜に東京を出発すると大谷原に着くのは、いつも深夜になり、丑三つ時を超えてる。1日目の行動開始時間が遅くなるのがいつもだ。大冷沢の右岸を10程度歩くと小冷沢の右岸へと、特に意識しなくとも林道が導いてくれた。そのまま小冷沢の右岸を詰め上がっていき、魚道がある堤防(おそらく3番目)に着き、冬靴+ゲイターなのでじゃぶじゃぶと沢に入って渡り、冷尾根の取り付きについた。

小冷沢の右岸をあがる
しかし、ねぎ、、、。

冷尾根取り付きは、枝沢の水流のせいで雪が溶けて沢床が見えていた。乗ったら崩れそうなブロックや濡れている沢床あたりを、藪をつかんで登ることになった。つまり最初からロープを出していくことになり、雪がしっかりある時期に比べ1時間は時間を費やすことになった。

冷尾根への取り付き

その取り付きを超えたならば、くるぶし上くらいの積雪を踏みながら冷尾根の稜線に上がっていく。尾根の突端は広くなく、樹木やブッシュが生え放題で、面倒な登りになった。

冷尾根の尾根上
樹木が生い茂り、決して快適ではない しかし、ねぎ、、、。

 

時折吹く、ブリザートのような強風の風雪に立ち止まりながら登ったが、なかなか高度があがらない。15時を回りそろそろ幕営地を探してもよい時間帯になっても、幕営できそうな平坦地がなかなか見当たらない。風雪のなか、徐々に気温が下がって行くなかで幕営地を見つけ、初日は1700mくらいの樹林内で幕営となった。初日に2300m付近の略奪点下あたりまで上がる予定だったが、この風雪ならば樹林なき稜線に上がる方が大変だったろう。

風雪を避けようと雪ブロックを3段積むため、3層分雪を掘り出して行くと、3回目に雪の層を抜けて、シャクナゲのブッシュに行き当たった。それくらいに雪が多くないのだ。できた穴は雪を埋めて固めて、その上に幕営した。この時期で湿った雪なので水作りは快調だった。就寝するまで、テントの外は風が吹き、轟音を立てていた。

二日目。昨夜の風はなくなり、きれいな朝日があがっていた。幕営を撤収して、登り始めて15分くらいで、小さく雪庇ができた樹林帯を抜けた稜線が現れた。

冷尾根をあるく

その稜線に上がると、日差しのおかげでアウターシェルは脱がざるをえなくなった。二本の足で快適に歩き続け、生える木が少なくなってくると、雪が少ないことが悪さをしてくる。木やシャクナゲが生い茂るところでは、植物の熱のせいで雪が薄くなっているのだ。そんなところに荷重して雪を踏み抜くとそのまま滑落になるので、ロープを出してプロテクションまでとって登った。しかし予定外のロープ確保になったので、時間がかかっていた。予定の更新をすると、大谷原まで降りられず赤岩尾根のどこかで幕営するのが現実的と思われた。

その高度を過ぎれば、木もなく雪がしっかりと安定するので、快適な雪稜になった。

樹林がなくなる高度になると、いい感じの雪稜に

たまにはこんなクライムダウンが

行く手の左手に北稜の末端が現れ、その側壁を横目に登っていたときに、「環水平アーク」という現象に出くわした。太陽の周りに「環」があり、それより遠いところに「水平」に虹が出ていた。その場では「ブロッケンなんとかじゃない?」とか言ってましたけれども。

「環水平アーク」というんだそうな
環なのに、水平?

まあまあな傾斜の尾根を上がりつつ、たまに60度くらいの雪が緩んだ壁、昨日積もった90cm程度の新雪をラッセルしながら、徐々に冷尾根と北稜の略奪点に近づいていった。

こんな感じに略濁点を目指す

略奪点についたのは13時。予定よりもだいぶ遅れていた。下降する赤岩尾根のどこかまで降りるのはできないのが確実になった。しかし、ここに幕営するわけにもいかず、これからの時間ならば雪がこれ以上緩むこともないので、雪壁を登ることになった。

過去の山行記録を読んだ記憶を頼ると、左へトラバースして北稜の稜線に上がるラインとなるのだが、S山さんの見立てで、右上して雪庇の右端、雪と岩のルンゼを上がるラインがよいということになった。最後の雪庇下がどう登るかよくわからないまま幅広いルンゼを登っていった。

略奪点の雪壁

40mほど登り、膨らみは小さいが稜の上で1p目を切った。下から見たときは平地に見えたが、実際について見るとまったくもって平たくはなかった。しっかりバケツを掘り、後続を迎えた。

こんな感じの傾斜
ツッコミお待ちしてます

2p目として切ったのは、雪庇下の立木が生えたあたりよりも数m下の70度くらいの雪壁のなかになった。ロープ長が足らなかったのではない、立木に近寄ろうとしたところ、立木直下はふかふかの新雪で固められなかったからだ。おそらく立木直下は直物の熱で雪が溶け穴が空いていたのだろうが、昨日の積雪で埋められただけなのだろう。

この2p目は、スノーバーで1箇所きちんとプロテクションをとった。なぜなら、下から見上げるとほぼ垂直に見える部分が5mほどあったからだ。登ってきた壁の雪質は、水分を含んだザクザク雪だったので、昨日降った新雪ではないし、しっかりと固めれば良いのだが、垂直に近い雪壁には、正直びびった。実際に登ると傾斜は80度ほどだったが、足上げするには傾斜が立ちすぎてスペースがなく、腰を壁に押し付け、潰して空間を作ってから足を上げるような傾斜だった。

雪庇の右端を狙って登る

2p目の終了点に後続を迎えながら、雪庇右端へと続くラインを観察していたが、どうも、雪庇下には1mくらいの天井高をもつ水平な割れ目がありそうだった。「あれはいけるんですか?」と言っていると「じゃあ、俺行こうか?」とS山さんに、トップを替わってもらえた。

S山さんが雪庇の直下を登る

立木や心細いブッシュでいくつかランナーをとり、雪庇下の水平割れ目の上がる2m弱の垂壁で、たいへんに苦労していた。ザクザクと崩れ落ちる部分と安定している部分が混在していたようで、足の置き場選びに時間をとっていた。2本目のアックスを取り出し、意を決した様子で垂壁に乗越をした。ビレイしていたこちらもヒヤヒヤしたし、乗越した後にスノーバーでプロテクションクリップのロープの流れが起きた時点で安心した。

3p目のラインどり
水平な割れ目に登りトラバースした

といっても、3mほど横に続く水平割れ目は天井まで高さ1mもなかったので、トラバースには苦労していた。トラバースを終え、雪庇の右端につき、立木にプロテクションをとったところで大休止。その後の雪と岩のルンゼを登り、稜線にあがった。

トップが登るのに1時間かかり、後続の二人が合わせて1時間強かかった。タナミーがラストに上がった時には、17:30になっていた。

稜線にあがれば、雪壁とは反対側の傾斜は緩く、整地をして幕営になった。テントに入れたのは19:30をまわり、食事をするためだけの水を作り、食事(といっても予備用食材)を食べて、眠りについたのは、23時近くになってしまった。

3日目。04時に目覚めたが、日差しのせいでテント内が明るくなってきたからだ。日の出を特等席で見学し、朝ごはんをゆっくり食べ、主稜線まで上がる100m弱の北稜の残りを登った。

とはいえ傾斜は45程度あり、おまけに一昨日降り積もった10cm分の新雪は緩み出し柔らかく、その下にある冬季に積もった雪はまだ硬い、という条件だったので、ステップ切りをきっちりすることになった。

三日目朝 主稜線へ上がる北稜の上部

主稜線に抜ければ、黒部を挟んで、劔が見える

主稜線に上がれば、それなりの達成感があった。想定外の事柄が多かったからだろう。

主稜線を冷池山荘方面にあるき、赤岩尾根の頭から少し尾根を下ると、結構な傾斜の雪面が出てきた。滑ったらどこまでも滑ることになるので、ロープで確保をすることになった。パーティによっては、確保なしにクライムダウンする、立木をつないで懸垂下降をするなど、それぞれのやり方だった。

赤岩尾根の降り口
それなりの傾斜だった

 

赤岩尾根を下る途中も気が抜けなかった。傾斜がそれなりに強く、人の踏み跡と自分の歩幅が合わずに、軽く滑り落ちたりした。タナミーにとっても久しぶりの縦走とラッセル続きで、かなり疲弊していた。

■感想 タナミー

日本登山体系には入門ルートと書いてあるそうだ。「入門」=「やさしい」ではない、特にこのルートは。「入門」としているのは、隣接する「鹿島槍の雪稜や雪壁などを志す人たちにとって」ということだろう。過去の山行記録には、”思ったよりも・・・”というコメントがあるのはそのためだろう。

アイスクライミングばっかりしていた割には、歩けたし、雪稜の登攀感覚もまずまずだった。しかしまあ、雪壁は初めてだったので、S山さんのおかげでいろいろと勉強ができた。ありがとうございました。


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