剱岳 チンネ 左稜線

■日時 8月10日(土)〜12日(月)

■場所  剱岳 チンネ 左稜線

■目的  アルパインクライミング

■メンバー  タナミー(記)、ayaさん

■天候  8/10,11,12 晴れ

■タイムテーブル

8/10  06:30扇沢 > 08:00室堂08:20 > 11:00剣御前小屋11:30 > 12:00剣沢小屋 > 13:50平蔵谷出会い14:10 > 16:15熊の岩19:30

8/11  03:30起床05:15 > 06:20池ノ谷乗越16:40 > 07:10三ノ窓乗越07:30 > 8:10左稜線取付き08:30 >>> 11:50T5「鼻」ピッチ取付き >>> 15:00チンネの頭15:30>>>17:30池ノ谷ガリー17:50 > 1820池ノ谷乗越18:30 > 20:00熊の岩22:00

8/12  03:00起床05:50 > 07:00平蔵谷出合07:20 > 10:00剣沢小屋10:30 >  11:30剣御前小屋12:00 > 13:30雷鳥沢14:00 > 15:00室堂> 17:00扇沢

■記録

「チンネ」。

カタカナで書くとなーんか野暮ったい字体になるけども。

「Zinne」。

もともとはドイツ語で「巨大な岩壁をもち,とがってやや独立した峰」のことらしい。

ということを今年初めて知りました。ひとつ賢くなれました。

室堂に行くために、扇沢着の夜行バスに乗ることになるけれども、集合場所についたところ、ぐんそーさんが居た。二週連続で、不意に遭遇にお互いとも、爆笑でした。

夜行バスに揺られて、扇沢に下されたのが、04時くらい。降りて感じることは、「さむ、、、」。チケットを買い求める列に並び(実際は寝転び)、電気バス・ケーブルカー・ロープウェイ・電気バスに揺られ、室堂に着きました。

で、またもやぐんそーさんに遭遇でした。ぐんそーさんたちは富山を経由して室堂までの直通夜行バスだったようで。お互いの無事を誓って、屋上の室堂平から出発したのでした。

剣御前小屋にあがる登山道は酷暑だったが、降りてくる人たちに励まされ、汗だくになりながら登った。

剣御前小屋からの剱岳の眺めは綺麗だった。源次郎尾根の懸垂ポイントが作るコルの向こうに、長次郎谷の雪渓が見え、その向こうの八ッ峰、そのその向こうにチンネが見えた(実際はあれがチンネだろう、て推測だけども)。

剣沢キャンプ場で大休止して、剣沢小屋から降っていくと、雪渓が現れた。雪渓の上をあるくと涼しい風が抜けて、気持ちよかった。

平蔵谷出合 こんなでっかい岩あったんだっけ

長次郎谷にちらっと入ったところ
剣沢を吹き抜ける風が凌げました

長次郎谷の出合でお話しした山岳会の人たちは、5人組で5日間もいるそうだ。なんて贅沢な日程と、でっかいザックなのだろうと感じました。「ここが今日の核心ですね」って言われましたが、まさにその通りでした。

長次郎谷の雪渓を登る

熊の岩は台地状だった

熊の岩には、池ノ谷乗越側の右股から辿り着きました。真砂沢ロッジに戻る3人組に「お疲れ様でした」と言葉をいただき、「初めて来ましたが、こんなに遠いところ2度と来たくありません」と返したところ「でも、来たくなるんですよね」と。そうなのか、今の所ギモンです。

適当な場所を見つけテントを張り、ご飯を食べて、暗くなる19時すぎに眠りについた。スッと眠れたのだが、何度も起きてしまった。

03:30に起き、ご飯を食べ、ヘッドランプがいらない明るさになってから、行動を開始した。池ノ谷乗越までの雪渓は、なかなかの傾斜になり、10本爪のスノースパイクで難儀した。硬い、曲がらない冬靴ではないトレッキングシューズでも使えるように、フロントとリアブロックをつなぐバーが柔らかくなっているのだが、フルフラットにしようとしても踏み込むと勝手にフルフラットでなくなってしまい、滑ることが2度起こった。ayaさんは、直前に軽登山靴に12本アイゼンの足回りに変更していたからか、難なく鼻歌交じりで登っていたので、ステップを作ってもらうことになった。

池ノ谷ガリーってほんとにガレ場

池ノ谷ガリーを降りて、三ノ窓乗越に行くのだが、池ノ谷ガリーはやはりただのガレ場だった。この大きさの岩が動くの?というくらい浮石満載だった。先行していた若者二人がスタスタと降りていくのには驚愕だった(その二人は小窓の王のルートに向かったようだった)。

三ノ窓乗越からZinneを見る
真ん中にあるのは左方ルンゼ
スカイラインが左稜線

三ノ窓乗越につくと、チンネ、いやいや、もとい、Zinneが目の前に現れる。左稜線の1p目には先ゆくパーティが登攀を開始したばかりだった。大休止をしながら、Zinneをまじまじと眺めた。フリーのクライミングルートを見て何か感じるとしたら恐怖、クラックのラインを見て何か感じるとしたら何もない(クラックが綺麗、なんて思ったことない)タナミーだが、デッカイ岩壁は「登りたい」意欲を駆り立てられるのが、不思議だった。

雪渓をトラバースしたが、取り付きと雪渓には2mくらいの割れ目があったので、取り付きから10m下に下がり岩壁に渡って、取り付きにたどり着いた。

Zinne 左稜線 
三ノ窓雪渓から撮影(過去山行から)

◯1p目

ハーケンが二つ打たれているテラスから始まり、フレークを右から回って大きなテラスへ。20mくらいのあいだ、1p目ということで、ハラハラしたのは間違いない。

1p目を登ってくるayaさん

◯2p目

ビレイ点の直上は垂直で登攀ラインとしては最弱とは言えなかった。左へ回り込んで見ると、スラブ状フェイスというべき傾斜がずっと続いていて最弱ラインと感じたので登った。40m程度ロープを伸ばしたところにハーケン・リングボルトにロープスリングが巻かれた支点を見つけ、ピッチを切った。しかしこれはトポの2p目終了点ではなかった。渋滞などで止む無く帰還するための懸垂下降支点だろう。そこから10m伸ばしたリッジを右に回り込んだところにきちんとビレイ点があったし、次なるピッチのルンゼが目視できる位置だった。

◯3p,4p,5p目

トポでは、草付バンド〜ルンゼ(30m,II)、フェイス(20m,IV)、草付リッジ(40m,I)となっているが、そんなラインどりでなかったから間違えたのだと思う。2p目の終了点から60m目一杯伸ばしたところで草薮のなかでピッチを切り、続いて15mくらいで日当たりの良いリッジのビレイ点ありの場所にたどり着いた。

7p目をのぼるタナミー
天を突いているのが「鼻」。

7p目を登ってくるayaさん

◯6p,7p目

まさに登っていた本人たちは、勘違いをしていたと思う。トポ4p目のフェイス(20m,IV)の前にいると思い、次なる草付リッジ(40m,I)をリンクしようと思い、60m弱ロープを伸ばした。ちょうどよくビレイ点あるわけでないので、自分の体よりでかいピナクルでピッチを切った。後続を迎え、次のピッチとして登ると15m程度で、林立するピナクルが見えたのでピッチを切った。

「鼻」を真下から
一つ前の8p目のスタートから

◯8p目

50m,IIIの林立するピナクルを登り降りしながらのピッチ。最初に登るピナクルが、カムでプロテクションを取りたくなるいやらしいピナクルだったが、その後は躊躇なく快適に登れた。ただし、登り降りをするピッチなので、中間プロテクションをまめにとっていたら、ロープドラッグが起きるので、トップする人の力量と判断が必要だ。

「鼻」
ピッチの取り付きから

◯9p目

「鼻」。

鼻の下を目指してカンテを右手でピンチしながら、スタンスを拾いながら登った。鼻の下あたりまで登り、カンテ状の小さいスタンスに右足をあげて腰を乗り上げたところ、鼻柱の向こう側の景色が目に入った。三ノ窓雪渓まで100m程度切れ落ちていた。どう考えてもそちら側に落ちることはないのだが、体がすくみ、動きが鈍りだした。鼻の下を回り込み小ハングを乗り越す前にホールドを探す余裕が失われたので、A0をした。鼻の下をトラバースした後も、ちょっとしたハングを乗り越すのだが、乗越先のガバが見えたので、チョチョイと登りテラスにて休止した。その後IVくらいをカムでプロテクションを取りながら(ヌンチャクが足らなくなりそうだったので)登り、35mくらいのところでハーケンが6つ打たれているところでピッチを切った。

「鼻」をよじ登ってきたayaさん

Zinneの頭まで登ってきたタナミー

Zineの頭まで登ってきたayaさん

◯10p目

「鼻」の柱の上半部。IVくらいが続くが、傾斜が落ちてリッジの背を登り、大きなピナクルでピッチを切った。

◯11p目

リッジがそれなりにナイフリッジなのらしいが、ガスに包まれていたので、高度感もなく、なんとなくピッチが終わった。

◯12p目

Zinne頂上へ向かって、ピナクルを越えていき、Zinne左稜線の登攀を終えた。

◯Zinne頂上から池ノ谷ガリーへの懸垂下降

12p目の終了点として使ったロープスリングが巻かれたリングボルト2つで懸垂下降ができたのだが、周囲を探ると池ノ谷側のハイマツ帯に隠れたところ懸垂下降できる残置ロープスリングがあった。先行パーティに従えば、この支点でないのだが、モノは試しに、と思い、そこから下降した。池ノ谷ガリーまで降り切った後にわかったことだが、先行パーティがとった懸垂下降ルートより、後続パーティのルートの方がより快適のようだ。

懸垂下降1pを降りて、ロープダウンチェックをしたが、思いのほか重たかったが、動いてしまったのが判断を鈍らせた。ayaさんにも降りてもらいロープダウンしようにも、今度は全く動かなかった。フリクションノット2つで登り返すと、一ヶ所スタックはしていたが、それよりもロープと岩との接触回数が多くロープダウンが困難な状況だった。2回目の懸垂下降支点あたりまで登り返しとトラバースをし、後続パーティの後からayaさんのいる支点まで降りた。

池ノ谷ガリーまで懸垂下降してガリーを登るのが大変

懸垂下降で時間がかかり、池ノ谷ガリーに降り立ったのは18時くらい。トワイライトタイムになりかかる頃に、気持ちが焦っていたが、ふと正気に戻り、「こりゃヘッドランプ下山だな」と思い直したところ、焦りがなくなり、普段の気持ちでデプローチを楽しめた。池ノ谷ガリーの登り返しはやはり大変なのだが、着々と登り、明るいうちに乗越まで上がれた。

池ノ谷乗越から長次郎谷への降り始めは急傾斜だった

軽登山靴+12本アイゼンのayaさんがステップを作る作業(タナミーのせいだけれども)のせいで、アックスを第3の支点にしなければいけないような傾斜を降りるまでに真っ暗になってしまった。ayaさんの素晴らしいところは、いつも朗らかな気分でいられるところだ。ベットランプで3点支持が必要な雪渓の傾斜でも、「あれ?ヘッドランプが暗すぎる。電池変えたばっかりなのにー」といいつつ、スペアのヘッドランプに替えて明るく照らされた様子を見て「よし、明るい!」と、普段通りだった。ヘッドランプが暗い時点で動揺する人もいるだろうけども。

テントに戻ったのは20時。タナミーが初めにしたことは、テントに置き去りにしたアイコスのストックに手を出したことだが、ayaさんは塩ライチ味の粉末ジュースとパウチ入りのフルーツポンチだった。ジュースとフルーツポンチ、今までの山行の中で、なかなかお目にかかれなかった品だが、一口した途端に幸せに襲われた。きっちりとご飯を食べて、明日の帰還予定を話し合い、22時になったところで眠りについた。

熊の岩から八峰VI峰のルートが丸見え

03時に起き、朝ごはんを作っているとヘッドランプをつけた人たちが、長次郎雪渓を渡り、八ッ峰VI峰に近づいていた。そんなに早く取り付きに行っても登れないだろうに、思っていたが、明るくなったころには3,4パーティが取り付きにたまっていた。剣稜会ルートはそんなにも人気なのかと思ったが、左側にある富山大ルート、その左にある「左ルート」が魅力的に見えた。「左ルート」のクラックラインはオフィズスサイズに思えたし、ウェブサベしても記録がろくに見当たらない。

06時に熊の岩から降り始めて小一時間したら、「あ、タナミーだ!うけるー」と仙台在住のMさんとばったり遭遇。しかし、まあ、「うけるー」のはこっちです。先々週あたりに台風が近くなか入山して登れなかったFacebook記事を見ていたので、早くもリベンジのようだった。その行動力たるや、、、。

剣沢に合流し、平蔵谷との出合あたりで剣沢を降ってくる年老いたお二人に声をかけられた。「このまま降れば室堂にいけますか?」正直驚いた。まるっきり反対方向だ。「このまま降りるともっと奥深いところに行きますし、一般登山道はないので引き返すべきです」と答えたところ、素直に引き返していった。

剣御前小屋まで上がり、剱岳を見納めして、雷鳥沢まで下ったが、ここが一番暑かった。2度熱中症になりかけたので、首根っこに水をかけ、塩分チャージをしながら降り、雷鳥沢のお水で足を冷やして、ほっとできた。

別れを惜しむayaさん
え?帰りたくないの?ぼくは早く帰りたい。

 

雷鳥沢から室堂平までの登り降り(実際には登りが多い)にヒイヒイ言いながら、室堂に着くことができた。

■コメント(タナミー)

熊の岩は遠すぎる。

それはさておき、やはり源次郎尾根にしても、八ッ峰のルートにしても、チンネのルートにしても、行けるようになるには、きちんとしたギアと多くの技術ができること、なによりも体力が必要だと感じた。

12本アイゼンがつけられるような登山靴は必携だと感じた。今回タナミーはトレッキングシューズと10本スノースパイクのせいでヒヤヒヤしたが、軽登山靴に冬の縦走用12本アイゼンだったayaさんで大きな違いが出た。とくに熊の岩から池ノ谷乗越までの急傾斜では違いがテキメンだった。

夏場の雪渓の急斜面を登るには、冬山のクラストした傾斜面で歩けることができなくてはいけない。歩けたとしても、夏場特有の溶ける凍りつくを繰り返した雪渓の斜面を読めなくてはいけない(ayaさんは氷化した雪渓の一筋に足を乗せてプチ滑落していた)。

今回は終始晴れ渡っていたが、ガスがかかるなか目的のルートに的確に行けるだけの、読図技術、地形を読む技術がなくてはならない。

必要なギア(ロープ、クライミングギア、カム、ハーケン、ハンマー)と幕営ギアと日数分の食料とを詰め込めば、60Lザックで足りるだろうか(5日間いるといっていた山岳会の女性は85Lを背負っていた)。それを背負って、雷鳥沢から剣御前小屋までの標高差約500m、長次郎谷出合から熊の岩までの標高差約700mを上がることを、こなさなくてはならない。それだけの体力が必要になるのだ。

そのうえで、ルートを登るクライミング技術、ルートを読むルートファインディング技術、プロテクションを取る技術、支点を作る技術、懸垂下降を確実にこなす技術、、、。

「剱岳界隈はなかなかにオモシロイところのようだ」と実感できた。

しかし、まあ、熊の岩は遠すぎる。


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