■日時 3月18日(土)〜3月19日(日)
■場所 鹿島槍ヶ岳
■目的 雪稜
■メンバー ヨネさん、タナミー(記)
■天候 3/18 晴れ 3/19 雪
■タイムテーブル
3/18
06:00起床 > 07:00大谷原を出発 > 08:40荒沢出合 > 13:30第1クロワール > 14:20第2クロワール > 15:00天狗の鼻
3/19
03:03起床 >(天候の様子見)>07:15天狗の鼻を出発 > 08:15天候と降雪のため撤退 > 09:30天狗の鼻 > 10:20第2クロワール下から荒沢へ下降 > 15:00荒沢 > 16:10荒沢出合 > 17:50大谷原に到着
■記録と感想
敗退、ということになったが、いろいろと実りの多い山行だった。天狗尾根を登る!山行というよりも、ヨネさんもタナミーも鹿島槍の北壁の様子を掴みたいとはじめから思っていたようだし、実際様子を知ることができたからだ。以前の山行で(恥ずかしながら)迷ってしまった天狗尾根へのアプローチも確認できた。なによりもタナミーとしては、尾根から谷へ降りる実践もできたので、よい経験が積めた。
新宿に集合して大谷原まで向かったが、やはり遠い。それなりに飛ばしたはずなのに、着いたのは02:30だった。睡眠3時間の06時起きで、身支度を整えて出発した。
大川沢にかかっている橋を渡り、方向を変えずそのまま進むとダイゴ沢になる。橋を渡ってから左に向きを変え、大川沢の左岸を遡行すると、東尾根や天狗尾根の末端にたどり着ける。

橋を渡って左へ向かう
取水口までは、スノーモービルが入れるように道が出来ているが、それより先は人の踏み跡のみだった。雪が多い時期だったためか、渡渉もなく荒沢出合に到着できた。
トポのアプローチでは大川沢の右岸の林道を歩き、取水口で対岸へ渡渉するとのことだが、実際に歩いてきた林道は大川沢の左岸だった。歩いてきた林道は最近できたものだろう。
荒沢出合にて休憩していると、人がわさわさ現れてきた。10人以上がいてみんな北壁にいくということだった。「北壁って大人気ルートだな」というタナミーのコメントに「普通ならこんなんじゃないよ」と教えてくれる人がいた。高気圧が張り出して晴天が見込める3連休に人が集まったようだった。そんな大勢いるところで、天狗尾根を登るのは我々だけだった。

荒沢の出合にて
荒沢を少し遡行して左岸に現れる広い尾根を登り、天狗尾根の上に出た。雪崩の跡があったので、それなりの急登だった。
1時間程度で広い天狗尾根上につき休憩した。ソロの人が上がってきたので話を聞くと、二人でいく予定だったのがパートナーは大谷原の駐車場で、仕事の呼び出し電話が来てとんぼ返りしたそうだ。北壁のどこかか天狗尾根をソロクライミングすると言っていた。強い人はいるものだ。ぜひそうなりたい。
尾根の幅がだいぶ細く痩せてきたころに、ちょっとした雪壁が現れ、みな同じようにアイゼンとギアをつけて登っていった。それにならって装備を整えながら、休憩を入れた。ここから先は登り下りを繰り返しす尾根道だった。

尾根の登り降りを繰り返す
第1クロワールは岩を右に巻いて登った。十数人が歩いた後なので、しっかりステップ出来ていて何の問題もなく登れた。

第2クロワール 岩の左側の雪壁を登った
第2クロワールは岩の左側を登るのだが、雪でクロワールが埋まっていたので岩があることに気がつかなかった。第2クロワールを超えたところで見えるスカイラインまで登れば、天狗の鼻に到着することができた。

鹿島槍北壁@天狗の鼻
天狗尾根を観察するとトレースがあることが確認できた。しかも、北壁の取り付きに向かう最低コルからのトラバースの踏み跡がばっちり見えていた。
天狗の鼻までに、だいぶ水分を失っていたので、お茶を2杯ぐびぐび飲み、お酒を飲み始めてから、明日の予定を話し合った。
①天気はよい。高気圧が広く張り出していて、予定を確保した3日間は晴天と予想できた。天狗の鼻に20人以上という人が集まったのも、おそらく天気のよい3日間が理由だと思う。
②天狗尾根の踏み跡もある。天狗尾根経由で鹿島槍北峰に登頂して北俣本谷下山ならば、かなり早い時間に降りられると予想できた。
③北壁ルートへのアプローチトレースがばっちりある。そのうえ、北壁に向かうパーティ20人以上が通る。アプローチのルート工作で苦労することは少ない。
ということから、”欲張り”をすることになった。早朝に空身で北壁ルートの取り付きを偵察してベースに戻り、その後ベースの撤収をして、天狗尾根経由で鹿島槍北峰に向かう、というプランになった。偵察のせいで、下山が遅くなるようなら、もう一泊するだけの日程を取ってあるのだ。
21時には寝袋に入った。稜線上での風の強さは知っているのが、時折ものすごい風がやってきていた。
「んー、なんか天候わるくなりそうな、、、zzz、、、」
03時半に起床して、テントから顔を出してみれば、雪が吹雪いていた。
「あれ?雪?」
スマホで天気図と降水マップをチェックしたら、剱岳あたりを中心に雪がふっていた。
「あれ?どういうこと?」
ラジオをつけて、萩本欽一さんと知らない俳優さんのトークを30分程度聞いた後の天気予報を聞くと、長野県北部に降雪注意報が出ていた。
「あれ?ちゅういほう?」
朝のうちは雪が降るでしょうとラジオがつぶやく。
「あれ?晴れの予報は?」
”んー、これだと北壁取り付き偵察はやめだなー”と話していたら、テントの外で数人分の足音が。1パーティは登攀に向かったようだった。

明るくなると まっしろー
明るくなってからトイレに外に出たら、まわりのテントにはバイルを突き刺したままになっていた。この天候なら停滞するのが無難だったのだろう。
トイレ用に昨日掘った腰くらいの深さがあった穴は、見事に雪で埋まっていた。
「あらー、天狗尾根のトレースもなくなったなー。」
北俣本谷にも新しい雪が2,30cmは積もったということになるので、下降には使えなくなった。
北壁に行くのなら停滞が決定的だろうけど、天狗尾根を登るのが我々の目的だったので、行けるのなら行こうということになった。ただしプランを変更して、北峰から冷池山荘まで主稜線を歩き、赤岩尾根を下って高千穂平でもう1泊になった。
テント撤収して、07時に出発。10張りほどあったほとんどのテントの外にはバイルが残されてたままだった。

2日目 天狗の鼻から最低コルへ向かう
うっすら残るトレースを辿って最低コルまで行くと、ソロテントが1張りあり、停滞していた。
その脇を通り、天狗尾根を登っていった。軽く吹雪いていて踏み跡もないなかをステップを固めて登って行ったが、なかなか高度を稼げない。15m程度登るのに30分かかった。

最低コルより上は もふもふの雪壁だった
トップをしていたヨネさんが小休止をして下を見た途端
「けっこう頑張ったのにこれしか登ってないの?」
08:30を回って朝ではない時刻になったが、雪が止む気配もなかった。
「帰るかー、今日中に降りて温泉でも入ろう。」
天狗尾根をそのまま登っていったらもう一泊は確実だったし、天狗尾根を登るのが目的というか、鹿島槍の概念理解と北壁の偵察もそれなりの比率で目的だったので、登頂できないとなっても、とくに無念さはなかった。
降り始めたら、最低コルに張っていたソロの人も荷造りを始めていた。そのまま下山かと踏んでいたがその方は天狗尾根を登りだしていた。やっぱ強い人はいるもんだ。
天狗の鼻に張っていたパーティは撤収下山のようだった。

第2クロワールを降りたあと 荒沢へと斜面を下った
第2クロワールをクライムダウンで下りきって、尾根を忠実にたどると少し登るわけなのだが、「登れなくても、ただでは降りない」ということで、荒沢へ斜面を下ることになった。
降りるラインをどういう判断基準で決めるか、トラバースするならどこか、シュルンドがあるかどうかどう読むか、などなど新たに勉強することができた。

ダブルアックスで雪面をトラバース
停滞できるような箇所がなかったので2時間以上、ダブルアックスでクライムダウンとトラバースを繰り返した。けっこう疲れたが、これだけやればコツみたいなものを掴んでくる。多少アックスやアイゼンの刺さりが悪くともテンポよく動いているときは問題なくトラバースできるのだ。むしろ、このテンポが崩れると余計体力と時間を消費するようだった。
ヨネさんは「ちょっと遊んできます」とマッシュルームを崩して稜線まで出るということをやっていた。

マッシュルームを崩して稜線まで登る という遊びらしい
大きな木のふもとで休憩して再度下降。広いルンゼは雪崩が起きた跡が全面にあった。雪崩れた面との際を辿って下降していき、数メートルの高さの岩が眼下に見えてきた。

荒沢に降りる直前には なめた岩があった
確保をしてもらい降り、ヨネさんはフリーで降りた。
その下側にまた岩が出てきたが、下が見通せなかったので迂回したところ、ちょうどよく見つけた体がすっぽり入る縦溝を発見した。ここを確保つきでステミングしながら下った。
「タナアミももう慣れたでしょ。もしかすると北壁の方が楽かもよ」
「そうかもしれないっす。登るよりも下る方が難しい。」
荒沢に降りて、雪で埋もれた沢を行く場合の注意点を教えてもらった。ワカンを持ってきたタナミーが先行して歩いた。

荒沢まで降りてきた
荒沢出合に着いたのは16時過ぎ。このときには、ふたりともエネルギー不足になっていたので、大休止をしエネルギー補給した。
大谷原に戻ったのは18時前。大谷原〜荒沢出合は、ふつうならば1時間だろうけれども、2時間もかかっていた。アップダウンが激しいわけでもなく、道が悪いわけでもない。なぜなら林道だから。しかしこの平坦な道が苦しかった。
そのくらい二人ともけっこうヘロヘロになったのだ。尾根から沢に降ったからだろうけれども、こういうことを進んでしないと(雪とたわむれないと)雪山慣れしていかないと思う。”北壁を目当てに行って、天候が悪いから登攀日に同ルートを戻ってきた”という山行では味わえない、充実感ある山行だった。