甲斐駒ケ岳 黄蓮谷左俣

東出(記録)、内田
氷2回目の内田氏を(半ば無理やり)誘って黄蓮谷へ向かう。核心以外はナメ氷なのでまあ問題無かろう。問題はむしろ江戸川区の町内会副会長の重職にある内田氏が、日曜18:00に町内会の集会があることだ。そういうわけで早出を心がける。5合目まではコースタイム通りといったところ。快晴で雪もくるぶし程度と少ない。5合目までは登るにつれ、登山道が氷化していて歩きにくい。時間が早いのでトレース無し。小屋の裏手からはやや雪が溜まっていたが、スネ程度。
赤布に沿って黄蓮谷に降り立つと、5mほどの滝を抱えた釜が控えていて、これは左から巻く。すぐに広い河原となり、先に坊主ノ滝の蒼氷が見える。結氷は良好。今週はまだ人の手で汚れていないのが嬉しい。黄蓮谷をナメ切った我々は8.5mザイル1本でするすると登る。内田氏もするすると登ってきた。氷2回目でこういう良いクラッシックルートに入れるのだから幸運である。左俣にはいると、ところどころ膝くらいのラッセル。しかし雪は軽くて快適この上ない。核心の大滝までは時間がかかったものの、ナメ氷ばかりで特に何ということも無くクリア。核心大滝下より少し下には幕営可能な平坦な場所があり、16:30と時間が遅いため、ここでビバークしようかと迷ったが、美しい大滝を見に、下まで行ったら気が変わってしまった。登るっきゃない。明日の天気と、内田氏の登攀時間を考えると登っておくのがベターでもある。60m大滝の上部が見えないこととザイルが50m1本なので、どこでピッチを切るか迷ったが、とりあえず登る。取付き10mほどは3級程度で容易。その上30m程度が80度といったところ。氷は容易だが、使い古しの丸まったアイゼンが蹴込んでもなかなか決まらない。おまけに春に谷川で拾ったバイルの決まりが悪い。傾斜がやや緩んだところでスクリューを2本決め、ハンギングビレイ。スクリューの支持力は信頼しているが、抜けたら終わりだなといつも思う。夕闇の中、懐電
を点けて内田氏が登る。下段はクリヤしたが、立ってくると厳しい。ユマールに切り替えて登ってきた。交代。少し登れば終了かと思いきや、そこから50m一杯のばしても滝上に出ず。しかたなく緩斜面でまたピッチを切って内田氏をビレイ。最後はつるべで内田氏が10mほど登って終了。時間がかかった。大滝上は緩斜面となっており、デブリも若干出ている。雪が多いと寝るにはコワイところだ。大滝上20mばかりのところに、かぶった大岩があり、雪をかきわけると良いビバーグポイントになった。岩の両端に発達したつららに穴を開けてツエルトを張ってビバーグ。
翌日はやや寝飛ばして7:00発。最後の滝は右が立っており、4級プラスといった感じだ。内田氏には悪いが、こっちを直登させてもらう。いつものクセで10mばかりノーピンで登るが、部分的に氷が薄くてガタプルになる。子持ちはこういうことをしてはいけない。潅木でビレイ。セカンドは途中であきらめてユマーリングで登ってきた。下から1パーティー来たらしい。暗いうちから登ったならともかく、この時間で大滝を抜けたとは思えない。巻いてきたのだろうか。天候は下り坂で、小雪が舞い始めた。ツメのあたりは視界が悪く、適当に見当をつけて左の緩斜面に這い上がり、そのまま左へトラバースすると黒戸尾根の8合目と7丈小屋の間あたり、樹林帯に入る手前に出た。7丈の冬季小屋で一服し、駐車場へ下って終了。15:00。氷は大滝以外は面白くないが、蒼氷が美しく、良き遡行であったと思う。
1:00 竹宇駒駐車場
3:30 起床
4:00 発
9:00 5合目
10:30 黄蓮谷
12:30 二俣
16:30 60m大滝下
20:00 大滝上(ビバーグ)
6:00 起床
7:00 発
11:00 7丈小屋
15:00 駐車場
東出、内田(文責)
神々しいまでに蒼く凍てついた氷の柱が、目の前に広がっている。どんよりと曇った空が、その蒼さを一層引き出しているようだ。落差約60m。ほぼ垂直に近いこのルートの核心部となるV-級の氷の滝だ。こんなに美しい氷の芸術を自分は今までに見たことがあるだろうか。これまでの疲れも忘れ、しばしその美しさに見とれていた。車中で2時間ほど仮眠を取った後、まだ、夜も明けきらぬ午前4:30、駒ヶ岳神社の駐車場を出発。近くの神社で参拝し、今日明日の無事を祈願する。こんな朝早くに神様は目を覚ましているのだろうか。我々の願いがちゃんと届くかどうか、ちょっと心配になった。程よく降り積もった雪道の中を、五合目小屋めざして、ひたす
ら登る。出発前の寒さからはようやく開放されたものの、今度は睡魔が我が身に襲ってきた。寝不足を起因とする神経の疲れが、ハイテンポで体を蝕んでいるのがわかる。右に左にフラフラと揺れながら、一歩一歩、体を上へと運び、5時間ほどで小屋前に到着。ここから、取り付きの千丈ノ滝まで、1時間半程下り、いよいよ登攀開始だ。

風の音しか聞こえない、静粛そのものの世界をワンピッチずつ、順当に詰めていく。グレードは?級、?級といったところか。ナメ滝をいくつも越えていくのだが、段々と腕や脚がくたびれてきた。なにせ、アイスクライミングは今日で二回目の体験。初心者にはこの程度のグレードでもたび重なればちょっときつく感じる。その疲労がそろそろピークに達しようとしたところが、核心部の大滝であった。時刻は、16時をちょっと過ぎた辺りであったろうか。本来ならば、この辺りでビバークポイントを見つけ、明日一番での核心部突破に備えるべく、本日は”TheEnd”とするところなのであろうが、リーダの非情ともいえる前進命令が下った。大号令のもと、意を決して大滝に取り付き始めたものの、やっぱりダメ。自分の技術力、ならびに現在の疲労度を鑑み、とうてい上には行けないと早々に判断。悔しいかな、ロープを固定してもらいユマールでよじ登る。やっとこさ、大滝上に抜けたときには、辺りは漆を撒き散らしたような闇の中。近くに、適当な岩小屋があったので、今夜はここでビバークすることとなった。軽量化を図ったため、寝具はシュラフカバーのみ。さすがに寒い。寝ては覚め、覚めては寝てを繰り返し、長い夜をようやく乗り越える。結局、このビバークでは”ほんのちょっとだけ休めた”だけだった。

翌朝、最後の滝をワンピッチで抜け、八合目の終了点に到着。長い長いルートが終了した。岩を攀じ登る行為に比べれば、氷のそれはさほど面白くは感じない。しかし、バイルの先っちょが氷の中に、深く、硬く、ガチィッっと決まったときの、あの快感はたまらない。ガバのホールドを素手でギュット掴んだときの感触に、勝るとも決して劣らない気持ちよさが伝わってくる。今回は、うまく登れなかった分、いろいろと課題が残った。今度は是非とも、右俣にチャレンジしたいと思う。小雪がちらつき始めたなか、下山を開始した。


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