甲斐駒ケ岳 黄蓮谷左俣

甲斐駒ケ岳 黄蓮谷左俣

■日時 12月16日(金)~18日(日)

■場所  甲斐駒ケ岳 黄蓮谷 左俣

■目的  アイスクライミング

■メンバー  ヨネさん(L)、タナミー(記)

■天候  全日とも晴れ

■タイムテーブル

12/16 07:15竹宇駒ケ岳神社駐車場 > 15:05五丈小屋跡(幕営)

12/17 05:30起床 > 07:40行動開始

08:40 五丈沢と黄蓮谷の出合

09:00 坊主の滝

11:15 二股

12:00 チムニーの滝

14:30 20m滝

15:00 アイスクライミングを止めてルンゼを詰める

19:40 黒戸尾根らしき稜線にでるがトレースが見つからずビバークが決定

20:00 黒戸尾根の直下にてビバーク

12/18 06:40 起床

07:30 ビバーク地を出発

07:40 黒戸尾根のトレースを発見

09:00 五丈小屋跡 12:00

17:15 竹宇駒ケ岳神社駐車場

■記録

前日12/15の夜に首都圏某所に集合して、道の駅はくしゅうに向けて出発した。道の駅に着くと気温は0度。慣れていないとそれなりに寒かったが、お酒を飲みシュラフに潜るとぐっすり眠れた。

タナミーは黒戸尾根を登るのが初めてで、長い尾根道とは知っていたが、25kg近くの荷を背負って登るのはかなり堪えた。

黒戸尾根を登る ながい道程が待ち受けている

笹の平分岐からの登りが厳しく感じた。手足を使うような傾斜でなく、2足歩行するには斜度が強くすぎで、ストックがありがたかった。

1組だけ下山してくる登山者と会い、情報を得た。七丈小屋に宿泊した方たちだが、この週前半に雪が腰まで積もっていること、まだ誰も登頂していなくトレースがないことを知った。

七丈小屋まで行く予定だったが、五丈小屋跡に変更になった。15時前に七丈小屋につく予定が、15時に五丈小屋跡にいたこともあるし、25kgを背負っての黒戸尾根はなかなか堪えるのだ。

05:30に起床して食事をとり準備をしたところ、07:30になってしまい、すこし出遅れた感じになった。

五丈沢の沢沿いを下る

五丈沢を降りつつ、沢下りのポイントを教わった。沢自体に降りるのでなく沢に沿って下がること、尾根上の巨石あたりでは急峻になるので回り込むように下がることなど、沢登りで培うべき知識を教えて貰った。

黄蓮谷と出合について初めに見える滝を見て驚いた。水流の真ん中あたりは全く凍っていなかった。ほんとに登れるのかいな?とおもいつつその滝は巻いて、沢を詰め始める。

黄蓮谷に下りると、冬の沢らしき風景に出会える

透明に凍った氷の下に水が流れる、この景色は冬の沢登りのよきところだろう。

坊主の滝 アルパインアイスの名ルートが始まる

坊主の滝に着いて観察すると、氷が薄く表面を水が流れているものの、登れそうだった。

今シーズン初のアイスクライミングに緊張を覚えつつも慎重にのぼった。このせいか、だいぶ時間がかかった。「冬の登攀はスピードが命」、このあとに実感することになった。

二股あたり 正面は左俣にある三段の滝

二股まで上がり、左俣の入り口あたりに三段の滝が現れた。登れるクライマー同士ならロープなしでサクッと上るのだろうが、タナミーはアイスが2シーズン目ということで確保をした。時間短縮のため、リードはプロテクションなしにロープをつけて登り、フォローもできるかぎりスピードを意識してのぼった。

チムニー滝につき、取り付きあたりが今までのようなナメた滝でないことに緊張したが、実際に登ってみると意外にも問題なく登れた。

チムニー滝よりあとの左俣の様子は雪が多く、埋まりつつあるといった印象だった。また谷に吹き下ろす風に雪が舞っていたため、雪がしまっておらず足ズボする場面が増えてきた。

50mの滝を登ったあと、20mの滝をリードさせてもらった。このとき、ルートファインディングをヨネさんもタナミーも誤ったようだった。下山後、他の山行記録で20mの滝の写真を見たところ、雪が少なく凍った滝が露出していて本流がわかりやすかったが、我々のときは雪がべったり付いていて本流とは思えなかったのだ。吹き下ろす風がなかなかの強さで顔を上げているのがつらく、まわりの観察がよくできなかったという原因もあると思う。20mの滝の直下で右岸に入る支流があり、雪の多さもあってそちらが本流だと勘違いが起きたのだ。よくトポを見ると50mの滝と20mの滝の間に、しっかりと支流が書いてあった。この支流を選んだのだ。

ルンゼを詰め始める

ルート間違いをした、とわかったのは下山後であり、我々は次に現れるはずの60mの垂直の滝になかなか出会わず(そもそも出会うはずもないけれど)、「もしかしたら雪に埋もれたのかもしれない」「もしかして今シーズンの黄蓮谷はもう終わりかもね」と思いつつルンゼを上り詰めていった。

ちょっとした岩壁を巻くことを2、3度繰りかえしていくと、夕方になってきた。冬のアルパインではスピードが大切というのもよくわかった。ちょっとした遅れが積もれば、あっという間に日没になってしまうのだ。

「どう、おもしろい?」

「面白いっすね。」

「道無きところで自分で道を見つけてのぼっていくところが、登山の面白さだよね」

「そうですね、ぼうもそういうことがやりたくて」

ヘッドランプを装着する頃にはルンゼを抜けたようだった。このあとは斜面を適当に辿って登ることになり、ラッセルになった。

日が落ち切った頃からラッセルが始まった

ラッセルを始めた頃に日が完全に落ちた。暗い中の行動はさすがに慣れてきたが、その日の暗闇行動の始めたばかりの時間帯では、やはり何かは起こるものだ。ヨネさんのふくらはぎが肉離れを起こしたのだ。

軽度のもので歩けたものの、トップでラッセルするのが厳しいということで、ビバークを前提としてビバークポイントを探しながら登高することになった。

タナミーとしては、ビバークしたことないし・したくないし、だった。時間が遅くなって黒戸尾根まで上がれたら、登山道を歩いて幕営地まで帰れるのではないかと思い、ラッセルをせっせとし続けた。今思い出すと、この時に七丈小屋より上の登山道にはトレースがないことを教えてくれた登山者の言葉を思い出すべきだったと思う。冬山でよくいわれる”総合力”が、こういうときにまだまだ足らないと感じさせてくれる。

シャクナゲや立木が多いところでは、雪はしっかりと積もることなく隙間が空いている。雪を膝で潰して足で踏み込んでもシッカリしまらず、腰まで埋もれてしまうのが体験できた。吹き下ろす風は冬山の稜線近辺では大したことないということだが、この経験もタナミーにとっては初めてだった。

ビバークポイントを探しながらといっても、そんなに簡単に見つかるはずもなく、ただただせっせとラッセルを続けた。2時間近くラッセルを続けていたが、バテることもなく続けられたのはとても不思議だった。

19時すぎに地形と地図を照らし合わせて、あとすこしというあたりで、大きな岩が縦に割れて幅1.5m程度の裂け目を見つけた。タナミーはこれが登山道か?と思い向かってしまったが、尾根に向かう方向と違っていたためヨネさんに注意される。

「すいません、誘惑にかられて・・・。」

元の地点に戻り、ヨネさんの指示する方向に進んでいくと、左上に稜線が見えた。

「あ、稜線、見えました」

「グッジョブ!」

見えた稜線を目指して、焦らずに着実に登っていった。

あるところを境にして、様子が変わった。雪がしまりラッセルしなくてもよくなったのだ。また風がかなり弱くなった。おかしいなと思い立ち止まり、行動食を食べながら(このときはさすがにシャリバテしていた)、ヨネさんが地形を読んた。

「あれ、登山道を横切ったかもしれない」

進んでいる方角と傾斜の方向からして尾根を通り超したようだった。

「?。トレースなかったですよ」

前進するのをやめて、元の道をもどった。随分と広いが尾根らしきところがあったのだ。下に向かう尾根が夜空の中にかすかに見えたが、これがもし間違った尾根だとしたら、と思うと下らないことになった。

トレースのない尾根に来て、「あ、今日中にテントに戻れないや、ビバークだな」とようやく思った。

夏冬を通じて一回もビバークしたことなんてなかったので、できればテントに戻りたかったけど、自分の置かれた状況が納得できたので、すんなりと受け入れた。

ついさっき登山道かと勘違いをした岩の割れ目に戻り、ビバークとなった。

さて、いかに快適に寝るかが大きな問題になる。雪を均して寝られる様にし、ロープを広げて、その上にハイマツやシャクナゲを敷き詰めた。寝袋に潜り込み、ツェルトに包まると、意外に寒くなかった。

とはいえ、寒くないだけである。この状況で、気分良く寝られるはずもなく、ほとんど寝ないまま(落ちいた時間はあった)日の出を待った。

ツェルトが巻き上げられるほどの風があるときもあれば、まったくの無風のときもあり、無風のときには顔をだして星空と眼下の韮崎の夜景を見ながら時間を潰した。

明け方前の04時頃が一番冷え込み、その時刻をやり過ごすと今度は寝坊するわけです。06時30分にはすっかり明るいのに、目覚めたのはその時刻。

登ることは一切せずに、トラバースをして登山道に復帰できなかと行動を開始した。初めて10分もたたずに登りの登山者が目に入った。その方はすごく綺麗についたトレースを歩いていた。

前夜はなかったトレースが すぐに現れた

「あれ、なんかおかしくない?昨日夜なんでみつからなかった」

登山者に方に質問したかったが、「なんなの?こいつら?どっから湧いてきたの?」という様な表情を浮かべて、すたすたと行ってしまった。よく考えれば、まことに正しいことだと思います。

そんなことを考えつつも、このトレースを着実にたどればよいことがわかったときは、安心した

下山後のweb記録を調べていたら、トレースの謎は解明された。12/13(火)の夜半にかけてそれなりの降雪があった。その週末の12/17(土)までは、登頂者がおらず七丈小屋より上にトレースがなかったようであった。そして12/18(日)に七丈小屋より04時に山頂に向かったパーティがいるとのことだった。つまり、我々がビバークをしていたまさにそのときに、トレースがついたことになった。

幕営地の五条小屋跡まで、黄蓮谷に下りるアプローチの目印を確認しながらゆっくりと降りた。六丈沢を下りるアプローチの目印の石碑も確認できたが、七丈小屋から降って最初に出てくる木橋あたりにも下に降りる踏み跡があった。おそらく七丈沢を下りるアプローチだろうと思う。

幕営地に戻ったのは09:00ごろ。座り込んで空を見上げると、雲ひとつなく、風もなく、太陽がギラギラ輝いていた。「なんて平和なんだろう」 ビバーク地での感じた夜の暗闇の中の風が吹く山とはまったく違っていた。

五丈小屋跡から見上げる甲斐駒ケ岳 平和な雪山の景色

湯を沸かして甘いコーヒーを飲むと「う、うまい」と声が漏れる。つまみにと持ってきていたウィンナーを焼くと、焼ける香りに敏感に反応し、食べてさらに感動した。

食事をゆっくり食べ、テントを片付けて下山を始めたのは12:00ごろ。4時間か4時間半で駐車場まで戻れるだろうと思っていたが、読みが甘かった。ビバーク明けの睡眠の不足、水分摂取の不足、25kgの荷物、体の疲労を考えていなかったのだ。小屋泊で甲斐駒ケ岳に登頂してきたであろう登山者にバンバン抜かれていったのでペースが遅いのだろうなと思っていたが、かなり遅かった。駐車場に戻れたのは17時過ぎで、6時間強を要していた。

駐車場に戻った頃には、日の暮れていた

駐車場の自販機に売っていたスポーツドリンクをがぶ飲みした。3口くらいで飲み干せたのだから、やはり水分量が足らなかったのだろう。

スマホの機内モードを解除してみると、代表から「下山しましたか?」と1時間近く前の時刻にメッセージが来ていた。3日目は下山のみの予定だったので、午後3時を回っていたら、心配にもなるはずだ。返したメッセージは

「ついさっき、下山しました。つかれはてました・・・。」

のみ。なかなかハードだった山行の中身を掻い摘んで、返信しようかと思ったが、そんな気力も出なかった。

 

黄蓮谷は、天候がよくない・前の週にドカ雪が降った・前の週が暖かすぎて氷が解けた・などなどで、計画を立てた年に行けることは、めったにないそうだ。そういうルートに運良く行けたことに、十分に満足している。左俣からずれたり、ビバークしたりなんかは、いい体験ができたオプションだと思うことにしよう。

来シーズンにまた黄蓮谷に行きたいか?と聞かれたら

「もちろん、黄蓮谷には来シーズンも行きたい!

ただ、黒戸尾根を登るのは、来シーズンじゃ早すぎる!」

と答えたい。どうにかならないか!?黒戸尾根!?


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  1. タナミーさんどうも。瑞牆でお世話になったKORIです。
    ビバーク付の黄蓮谷ですか、濃い山行してますね。
    自分も今シーズンからアイス始めました。アイス楽しいですね!

    • KORIさん、おひさしぶりです。
      黄蓮谷は、濃すぎでした、いろんな意味で。
      アイスもまだまだヒヨッコなんで、上手くなりたいですね。
      いつか氷柱とか行ってみたくないですか?

      • いやー行きたいっすね。
        リードが安定してできるようになったら是非ご一緒させて下さい。
        2月はジョウゴ沢と大谷不動あたりで鍛えるつもりです。