穂高 北尾根/東稜

曽山・赤井・樋口B・広島・須藤・徳永・天津(記録)
5/1
残雪に輝く超クラシカルな前穂北尾根を、すばらしい晴天の下でスリリングに踏破した! 四 月三〇日夜、新宿集合から急行アルプスで出発。翌朝六時過ぎに上高地へ入るとかなりの冷え込みで閉口したが、レストランで朝食をとって歩きだす頃には緩み始め、四日間にわたる魅惑の合宿をスタートした。
華やかな数多の人の波を追い抜き、重装備にもかかわらず二時間三〇分で横尾へ。途中で仰ぎ見た明神岳主稜や前穂東壁群、横尾谷へ入ってすぐに出現した屏風岩の大岩壁などは稜線以外には全く雪が付いていなくて、六月の様相だと話し合う。それでも、樹林帯の中程からは雪道となり、沢筋へ降りて雪渓通しのルートになると気分も締まった。
北穂を正面に見てから大きく左へ曲がり、シュルンドを避けて一か所だけ右岸を。高巻きし、最後は長~いスロープを数珠つなぎの人の列に揉まれながら、一五時前に涸沢へ到着。数メートルの積雪で夏用の水場などは完全に埋もれていたが、一四〇張の届出で大賑わいという。夜には各テントの灯りが浮かび上がり美しい。
5/2 前穂北尾根
七人のパーティーを二つの分けて、私は三人のメンバーと共に前穂北尾根を登攀する。
午前六時出発、五・六のコルまで一時間余りで急登を一気に上がりハーネスを装着。稜線上のルートに取り付くと五峰のヤセた雪壁の登りからいきなり緊迫の展開となり、スリリングな行程が始まった。五峰では涸沢側が垂直に切れているだけだったが、四峰では奥又白側も切れ落ち、ここでのスリップは数十メートルの“転落”につながり致命的な結果を招くだろう。さすがにプレッシャーに耐えかね、四峰下部の浮石の岩稜帯と左側から回り込む中間雪壁ではザイルで確保する。けれども、その上の雪壁は再びノーザイルで緊張し、他のパーティーで賑わう三・四のコルまで下ったときはホッとした。--そして、ここでの渋滞が後の行程に大きく影響していく。
前にいた8パーティーが登攀していく実に四時間も、ツェルトをかぶりスープを沸かして待ち続けた。快晴で暖かかったがこの標高では風も冷たく、右側のIV級ルートから追い抜く案もボツとなり、目出帽もかぶって備えることに。
一四時、ようやく核心の三峰に取り付き、当パーティーは二本のザイルで来ていたため三人目はユマールで越え、私がラストで登った。岩は堅く、ガバを素手でしっかり捉えながら快適に二ピッチを行く。1P目はリッジを奥又白側から回り込む階段状、2P目は凹角状のチムニーから石門をくぐっての雪壁で、高度感は抜群だがアンザイレンしている安心があった。さらに慎重に急雪面を詰めると三峰の頭に達し、そこからもヤセ尾根→二峰の雪壁の登り→二峰直下での涸沢側へのへつりでの通過→一・二のコルへの一五メートルの懸垂下降とつづき、相当ドギマギしつつ一七時に前穂山頂へと逐に到着!槍ヶ岳まで連なる主稜線のシルエットが感動的で、これから吊尾根を経由しての長い下山路への危惧をしばし打ち消した。
そして、夕暮れが近づく中を急いで吊尾根を下り始めるが、奥穂までの三分の二程を来た地点で突然リーダーが、「時間も押しているのでここを下ろう。」と涸沢までストレートに下れるバリエーション(?)の急斜面を指さした。かくして、六〇度はありそうな雪面を二人ずつのつるべでクライムダウンすることとなる。
ビレイ点はもちろん刺し込んだピッケルのみで、後ろ向きのキックステップで延々と5ピッチも降下し、最後はトレースも無い深雪の中を二〇時過ぎにようやく帰還した!

2シーズンにわたり待ち焦がれた積雪期の前穂北尾根は期待どおりで、夜には雪焼けで顔も痛かったが、ノーザイルの連続による強いプレッシャーと共にその鮮やかなラインを胸へと刻んだのでした。

5/3 北穂高岳・東稜
曽山・樋口B・広島・天津
合宿三日目、二つに分けた各パーティーの登攀ルートを昨日と入れ替え、私は三人のメンバーと共に北穂東稜を攻略した。
出発は五時過ぎで(起床は北尾根パーティーに合わせて二時半だった)、深雪の北穂沢を詰めて五〇分程でトラバース点まで。ここでスロープが一旦平らに近くなっており、トレースも完全で非常に明瞭だった。そして、側壁を上がって東稜に取り付き、北尾根と同じくナイフエッジでの“安易な事故”に対するプレッシャーとの闘いとなる。ヤセた雪稜を三〇分も進むと『ゴジラの背』が現れ、前の一パーティーを順番待ちしてから登攀開始。
待っている間はとても寒くて雪もチラついたが、リッジを横断しながら岩峰を越え(ガバで堅い岩の1ピッチ)さらに雪壁を登っていくと気分が高揚した。涸沢側は鋭く切れていて高度感が強まり、その後も幅一メートルほどのヤセ尾根と雪壁が連続して現れるルートで慎重に通過した。
クライムダウンを含む短い危険箇所を一度フィックスロープで越えた他は、すべてノーザイルで緊張する。霧がたち込める中、『大コル』を経て山頂直下の雪壁もバケツの硬い踏跡を丁寧に登り、所要四時間でやがて北穂小屋へと直接到達した!
小屋は一般登山者で賑わっており、私たちもビールで乾杯する。帰路はクラストした斜面をシリセードで下り、正午には涸沢BCへ戻って本合宿の主要部を終了した。
「バケツではなく、トレースの無い柔らかい雪だともっと雪稜を楽しめたが……」というリーダーの感想にもあるように、メンバーはプレッシャーに強く、安全面よりもスピードを明らかに重視していたけれど、残雪期のクライミングをまずは楽しめた充実のGW山行でした。

〈コースタイム〉
5/1  上高地8時~横尾10時30分~涸沢BC14時50分
5/2  涸沢発6時~五・六のコル7時10分~三・四のコル10時~前穂高山頂17時~吊尾根
下降点18時~涸沢20時15分
5/3  涸沢発5時20分~トラバース点6時10分~東稜起点コル6時45分~ゴジラの背7時
30分~北穂小屋9時30分~涸沢12時

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