笛吹川 鶏冠谷左俣

樋口B:L・大林・須藤・徳永・天津・広島(記録)

前夜に車で西沢渓谷入口のバス停に入り、駐車場で仮眠をとる。朝七時に起床。各自朝食を簡単に済ませ八時に駐車場を出発。そこから林道と河原を三〇分程歩くと遠くに鶏冠尾根の岩峰群が見え始め、水量の豊富な鶏冠谷の出合に到着する。早速、渓流シューズに履き替え、水の中に足を入れる。水の冷たさが直に伝わり、また夏が来て岩や沢のシーズンが始まったんだなあとあらためて実感した。

九時、樋口B氏がトップで遡行開始。ルートはナメやナメ滝の連続でかなり快適なため樋口B氏もぐいぐい進んで行く。滝をダイレクトに登る時にかかる水しぶきに心が踊る。 鶏冠谷の出合から二時間で一ノ沢の分岐点にやって来た。水流右側に大滝があらわれ、左手には一ノ沢からの巨大なスラブ帯がそびえている。我々の計画は右側の大滝を越えて一ノ沢ではなく三ノ沢をつめるため滝の巻き道の偵察がてら、ここでしばしの休憩をとる。滝の巻き道はいたって明瞭なのだが、よく見るとこの大滝と一ノ沢スラブの間に登攀可能な壁がそびえていた。

正直言うと、僕は今週の山行は沢ではなく岩の本チャンに行きたかったので、ここは是非とも滝を巻くのではなくこの岩壁を登って上に抜けたかった。大林氏も同じ考えであるらしく、滝壺から壁の様子をうかがっていた。そして、大林氏の「何か行けそうやなー。広島君登ってみる?」の一言で壁を登る覚悟を決め、登攀の準備をする。大林氏と自分が先行して滝壺上部二メートルぐらいの壁をトラバースして岩壁の基部へ。滝からの水しぶきを浴びながらハーケンで支点を作る。大林氏にビレイをお願いし、自分がリードする。 岩が濡れていて滑りやすいため、三点支持で確実に登っていかなくてはならない。思わずホールドを握る手に力が入る。五
メートル登ってハーケンを打つ。壁は三〇メートルぐらいで、中間部より右手にまわり込んで偵察のとき確認済の縦のクラックをホールドとスタンスにして登っていく。下から見ると急に見えたが、いざ登ってみると傾斜もきつくなく、三~四級の登攀といった感じだった。

かなりランナウトしたが何とか上に抜け木で支点を取りビレイ解除。下から登ってくる大林氏には、ここをスルーしてもらい、さらに右手に三〇メートルトラバースしてロープをフィックスしてもらう。

一三時三〇分、全員滝の上へ。後で樋口B氏に「あそこで広島が登ってくれたおかげで単調な沢登りがより充実したものになったよ」と言ってくれて、自分もみんなの役に立つことが出来てとてもうれしかった。僕は岩の世界ではまだまだ新参者なので、あまりえらそうなことは言えないが、この壁に対峙した時、何かが試されている様な気がした。右から滝を巻くのか、それとも壁を登って上に抜けるのか。僕はこれからの自分の登攀にはずみをつけるためにこの壁を登ることにした。

滝から三ノ沢出合まではナメ滝の連続で終止する。

一四時、三ノ沢出合へ。ガレ場とやぶを一時間弱程度で鶏冠尾根に到着。一五時。

尾根上には石楠花が群生し、ピンクの花を咲かせていた。登山道のないこの場所に沢を登
ってきた者だけが味わえるこの光景に、来年は一ノ沢スラブを登って、見てみたいと思った。


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