槍ヶ岳

未曾有の災害に襲われた2011年暮れ、新聞は今年の振り返り特集と来年を展望する記事にあふれ、
銀座を行きかう人の波もあわただしさを増していた。年の瀬が迫っていることをひしひしと感じる12月29日、槍ヶ岳へ向かう4人は20:30に新宿駅に集合した。

メンバーは、代表と、今年入会したtuka,martin,ryoの3人。
本格的な冬山が初めての3人を連れて行く代表は、若干緊張した面持ちにも見えた。
tukaがヘルメットを忘れたとのことで、代表のご自宅に借りに行く。
食料なども買い足し、中央道を一路松本へ向かった。
リニューアルされた談合坂SAで空腹を満たすため、「スタ丼」を食す。
えげつないほどニンニクが入っており、今後テント内生活において苦悶が予想された。
沢渡駐車場に25:45に到着。駐車場には約20台。
早速テントを張り、入山祝いを兼ね、就寝前の軽い酒宴を開き、山に来たことを実感する。
1.4リッターのウイスキーを持ってきたryoは、早速代表に「持って来すぎだろ」と突っ込まれる。
この日は27:00就寝。
●12月30日、風は強く、天候は晴れ。
6:10起床。簡単な朝食を取り、支度をしてタクシーを呼び、釜トンネル入り口へ向かう。
運転手さんはずっと地元のベテラン。
この夏の、1,200人が足止めを食らった上高地大規模土砂崩れの際、
お客さんを乗せて土砂崩れのあったトンネルを運転、間一髪で巻き込まれるのを免れたようだ。
この10年で、厳冬期冬山に向かう人は4割まで減ったと聞き、登山母集団が増えているのになぜだろう?
もっと増やせないか?など、答えが出ない取り留めのないことを考えながら、釜トンネルへ。
釜トンネル到着。涸沢ヒュッテの山口さんの姿も見える。
ここで代表は登山届けを出し、「下山するまで最後だな」といいながら大キジ撃ちへ。
一方、tuka,martin,ryoの3人は、蝶が岳に行くという、諏訪から来た山岳会の方々と軽く立ち話。
若い女性が多く、「うらやましいなぁ」と一人ごち。
9:00出発。釜トンネルを抜けると、雪をまとった焼岳が迎えてくれた。
大正池、帝国ホテルを抜け、上高地BTへ。ここで、30代のイケメン単独行と出会う。
話を聞くと、昨年は敗退。我々と全く同じルートで槍ヶ岳登頂を目指すようだ。
簡単に行動食をほおばり、明神、徳沢、この日の目的地横尾を目指す。
天気は快晴。風も無風。以前tukaとmartinは入会前に来たことがあるらしく
「吹雪くと結構きついんだよなぁ」と話しながら歩く。
明神からは豪快に雪をまとった明神岳が。
横尾に近づくと、前穂や屏風も見え明日からの本格的な横尾尾根登攀を前に、気分が高まる。
横尾冬季避難小屋にこの日は幕営。
今回の食当はtuka.この日はすき焼き。割り下担当のmartinの味がよく、お酒も進み、平らげる。
この日、いきなりryoがコーヒーとビールをぶちまけてしまう。反省。
●12月31日、天候快晴、ほぼ無風。4:30起床、7:30行動開始。
横尾尾根への取付である3のガリーを目指す。単独行の方によると、昨年ここで滑落者が出たようだ。
この日はトレースもあり、後ろにそびえる屏風岩に見守れられながら、順調に高度を稼ぐ。
約1時間ほど、標高差400mの急登にあえぎながら、何とか3のガリーの頭へ。
そこから横尾尾根をP6(2,613ピーク)に向かい登り始める。
横尾尾根は狭く、ところどころ懸垂下降用の残置ロープが残されている。
慎重に進むと、展望が開けている場所に出た。
進行方向右遠くには目的地槍ヶ岳、東鎌を経由し大天井、常念、蝶もはっきりと見える。
左側には、真っ白な前穂、屏風、北穂がくっきりと見え、tuka,martinとryoは歓声を上げる。
代表は、「天候がよすぎる。拍子抜けだなぁ」といいながら、うまそうにタバコを吸っていた。
この日はP6付近に幕営している2張りのエスパスの30mくらい上で、幕営となった。
tuka、ryoの荷物はツエルトにつつんで外へ。
代表から大キジ用トイレの彫り方を伝授してもらう。
この日は豚しゃぶ。ゴマたれも、martinが作ったポン酢もうまい。
明日は横尾尾根核心の「横尾の歯」を抜け、稜線に出、槍の肩まで向かう。
早く寝るか、と言った代表がつけてくれたラジオからは、紅白歌合戦が流れてきた。
AKBが200名あまりで出演しているらしい。
2011年に最後に聞くのがAKBでは締りが悪い、とシュラフに包まりながら思っていたら、
あっという間に睡魔に襲われて寝てしまった。
●1月1日、天候晴れのち暴風雪。3;30起床、7:30行動開始。
初日の出が屏風の左から見えた。全員それぞれの願い事を初日の出に託し、行動開始。
一路横尾の歯に向かう。
横尾の歯取付に到着すると、降りてくる7人パーティが見えた。信州大のパーティーらしい。
先に行ってもらうことにし、40分を消化。
ここでザイルを出し、リードは代表、以下ryo,martin,tukaの順序で登攀。
両側は200mほどすっぱり切れ落ちている。ロープがあっても滑落したくないな、と思いながら慎重に登り始める。
初めは3mほどの岩を乗り越し、続いてトラバース、10mほどの岩を登り、最後に5mくらいのルンゼ状になっている岩を下る。
ここでryoは、最後の1歩で滑落。左側にあったクラックにアイゼンをねじ込み、慎重に下るも、
最後の1歩を滑らせてしまった。ザイルに助けられ、なんとか登山道にもどる。
martinは、残置スリングにつかまり、危ないところがあるも何とか通過。tukaも通過。
その後、横尾尾根P8-P9から、天狗池からの尾根と合流し、稜線へ。
この時点で上高地BTで出会った単独行者と行動を共にすることになった。
稜線直下の急峻な登りが厳しい。ここも両側がすっぱりと切れ落ち、斜度はおよそ50-60度。
夏道ならおそらくハシゴと鎖で登って行くのだろう。
ピッケルを慎重に打ち込み、アイゼンでキックステップをけりこみ、稜線へ出ると、ホワイトアウトが待ち構えていた。
容赦なく雪と氷が顔にたたきつける。また、視界も悪い。
眉毛、まつげ、ひげは凍りつき、凍ったまつげから垂れてくる氷水が目に入り、痛いことこの上ない。
ここで突風が吹き、ryoはバランスを崩し、左足のアイゼンの前爪を右足に引っかけてしまい、
膝を凍りついた岩に痛打。今後、下山まで膝の痛みに悩まされることになる。
岩陰で一本取る。この時点で、martinが体調が少し悪い、と訴えた。あまり食べ物も入らないらしい。
あったかい紅茶を口に入れ、稜線を中岳、大喰岳、槍の肩へ向かう。
中岳への取付は、非常に稜線が広くホワイトアウトの状況下では迷いやすい。
代表の経験と、夏道を示す岩に書かれたペンキマークを元に歩く。
中岳山頂直下は、非常になだれやすい雪稜だった。トレースはなく、新雪が積もっている。
ここで先頭は代表。慎重にラッセルしながら、後続の4人に「とにかく雪崩やすいので、慎重に歩け」と指示が出る。
実際、ラッセルした脇には亀裂がいくつも見える。
両側はどれだけ切れ落ちているかわからない。
ここで雪崩たら、ひとたまりもない。天に祈るような気持ちで、慎重に歩き、何とか事なきを得た。
西岳山頂を通過。この時点で代表が時間を気にしていた。
martin,tukaは歩くペースが上がらない。
急な岩稜とハシゴをくだり、大喰岳に登る。
この時点で16時過ぎ。槍の肩まではあと1時間。日没するかどうか、といったところ。
ここで体調があまりよくなさそうなmartinのことと、行動の安全を考え、ビバークすることに。
大食岳直下で幕を張る。一緒に行動していた単独行者も、その横でテント泊。
この日の夕食は重ねキャベツ。ベーコンの塩味がスープにしみこんでうまい。
martinは相変わらず体調が悪そうで、何も口にできないらしい。ポカリスエットが飲めそう、ということで、
口に入るものは何でも入れてもらったほうが良いのだろう。
一方、tukaはこの日、2回も豪快にテント内に水をこぼしてしまった。
tukaもこの日相当疲れていたと思う。テントに入ってしばらく、だれも何もしゃべれなかった。
tukaは代表に「今日はどれくらい厳しいのですか?」とたずねたら、「まあまあだ」と言っていた。
代表の「まあまあ」は、初心者にとっては結構きついんだなぁ、と感じた。
外は荒れ狂った北アルプスの暴風雪が、うなりを上げている。
テントのありがたさが身にしみた。
食事を済ませ、死んだように就寝。
●1月2日、天候暴風雪のち薄曇り、強風。3:30起床、7:30行動開始。
起きると暴風雪は少し弱いようだ。テントをたたみ、コルまで降り、一路槍の肩冬季避難小屋へ向かう。
冬季避難小屋は非常にしっかりしていて、蚕の寝床のような2段ベッドまであった。
外の暴風雪は強さを増していた。
ここで準備をしながら、「俺は何回も登っているからいいよ」という代表に何とかサポートをお願いし、槍の頂上へ向かう。
登りでは1回ザイルを出した。ちょうど基底部からすこし登った箇所。あとは順調に、慎重に登っていく。
山頂直下の垂直2連ハシゴの直前でスリングを出してもらった。
10:45、目標にしていた槍ヶ岳山頂に立った。
吹雪で、何も見えない。
快晴だったら、どんなにきれいな景色なんだろう、と思いながら、登頂した充実感で満たされた。
tukaとmartinは、「槍に登るなら厳冬期」と決めていたらしく、感激もひとしおだっただろう。
とはいえ、吹雪も強くなってきたので、記念写真を撮り、5分くらいで山頂を後にした。
下りでは、1回ロープを出し、5mほどの懸垂下降。あとは慎重にピッケルを刺しながら下山。
12時前には山荘に到着した。
その後、西鎌尾根を下り、千丈乗越手前のなだれやすい30mほどの雪稜にてザイルを出す。
リードした代表がその雪稜をわたり始めた瞬間、幅5mほど、厚さ5cmほどの小さな切れ目ができたと思ったら、
スパーっと雪崩ていき緊張が走る。後続の4人も、慎重にわたり無事千丈乗越へ。
ここで少し青空が見え、西鎌尾根と槍ヶ岳の景色に歓声が上がる。
少し下降した分岐で、中崎尾根方面ではなく、雪崩のリスクも少ないだろう、
ということで槍平小屋へ降りることになった。
大喰岳西尾根の取付で、大喰岳から降りてきた3人パーティと、後続の2人パーティと出会う。
3人は2泊3日で新穂高⇔大喰岳ピストン、東京の山岳会所属の2人は硫黄尾根→西鎌尾根とのこと。
前後しながら順調に槍平冬季小屋まで下山。
冬季小屋には先着している単独のおじさんがいて、代表に「山のプロに大喰岳に登れるかどうか、判断してほしいんです」
と何度も食いついていたが、代表は「単独だし、天候も不安定だからやめておけ、としかいえないなぁ、、、」と困っていた。
この日は、持ってきたつまみや酒、余っている食料を出し、
ささやかなれども盛大に、下山祝いを兼ねた夕食をとり、就寝。
横尾尾根から合流した単独行者とも、一緒に楽しいお酒を飲めた。
●1月3日 天候薄曇り。4:30起床、8:30行動開始。
この日は下山のみ。滝谷、チビ沢、ブドウ沢、白出沢と通過しながら、新穂高温泉にゆっくりと下っていく。
途中で3箇所ほどデブリがあり、少々緊張が走るが、順調に白出沢を過ぎ、林道へ。
10;40に下山、新穂高温泉にて6日ぶりのお風呂に入り、山行の疲れと汚れを落とす。
今まで入った中で、一番気持ちがよかった風呂だった。
温泉から出た後眺めた景色は、真っ白の山に囲まれ、1日前まで自分たちがそこにいたとは
信じられない景色が広がっていた。
代表から「もういい、と山の中では思うだろう?」と聞かれ、素直に「はい」とうなずく。
「でも下山して、下からこの景色を眺めると、また行きたくなるんだよなぁ。」といわれると、また素直に「はい」とうなずく。
また行きたいなぁと思うとともに、危なっかしい新人3人を連れてきていただいた代表と、
サポートしていただいた方々に深く感謝いたします。
 ●反省点
・装備品の準備不足
→個人・共同装備の携行品については、確認を徹底すること
・冬山での行動スピード
→冬山装備を背負っての歩行およびラッセルの速度が遅いので、体力及びラッセルスキルを上げること。
・テントの中での水分こぼし
→注意が足りない、という他ない。
・岩場での滑落、アイゼンに引っかけての転倒
→個人のスキルをあげる他なし。岩場でのアイゼントレをしたい。
・起床から行動開始までの時間短縮
→水作りから朝食作り、テルモスに入れるドリンク作り、撤収まで、もう少し早くなるはず。
段取りと個人のパッキングについて、考える必要がある。
・体調不良
→おそらくシャリバテだと思われる。朝食の栄養及び水分の取り方を徹底。
・水作り
→木や葉が混じるような雪を使わなくてはならない場合、コーヒーフィルターが役に立つ。

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代表のブログに冬合宿の記事と写真がアップされました。

http://tozaitozai.at.webry.info/201201/article_4.html

http://webryalbum.biglobe.ne.jp/myalbum/30196760039cf683d06389ceb42ffab118c63f430/281719014736665231

また、FACEBOOKにも写真をアップしております。
http://www.facebook.com/media/set/?set=a.255738941158577.61861.158424404223365&type=1&l=480d72c70a

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