■日時 9月10日(日)
■場所 谷川岳 一ノ倉沢
■目的 アルパインクライミング
■メンバー タナミー(記)、ぐんそうさん
■天候 晴れのちくもりがち
■タイムテーブル
05:00ベースプラザ > 06:00一ノ倉沢出合 > 07:20テールリッジ末端 > 08:10中央稜取付 > 13:00中央稜終了点 > 13:10北稜下降路 > 15:40略奪点 > 17:00衝立前沢-本谷出合 > 18:00一ノ倉沢出合 > 19:00ベースプラザ
■記録
谷川岳一ノ倉沢にある衝立岩には、登りたいルートがある。雲稜第1と第2、ダイレクトカンテだ。これらのルートを登ること自体がハードだろう。アルパイングレードには、フリークライミングのような登る技術に対するものでなく、プアな支点、岩のもろさ、環境の悪さが加わることは、よく分かっている。
これらのルートを登りきったときは、肉体的にも精神的にも疲労していると思う。そんな状態でデプローチを、しかも初見で降りたら、と思った。
衝立岩北稜を6回の懸垂下降で降り、衝立前沢の枯れた沢下りをして、本谷を下る、長いデプローチだ。何かしらの問題が起きたら、明るいうちに出合まで戻ってこれるだろうか。
衝立岩中央稜を登り北稜を下降した記録を調べると、やはりというか、ビバークした記録が見つかる。
「北稜下降路を1度はトレースしておこうかな。」
今回は、衝立岩の北稜下降路を確かめに行ってきた。
衝立岩の頭まで登ると言ったら、中央稜。ここをに登るのも初めてなので、タナミーにとっては初めてのことが多い山行になった。これで3回目の一ノ倉沢なのだから、当然だ。
東京都内から土合駅に着くのはどうしても日付を回るような時間になる。本当なら一ノ倉沢出合いで夜明けを待ち、明るくなると同時にアプロチをしたいのだが、そうすると寝る時間が2時間と短すぎる。それは避けたいところだ。
ベースプラザを立つ頃に日の出を迎えるように05時発にした。出合までは舗装された道を1時間かけて歩いた。出合に着いたのは06時でギアをつけて準備していると6、7人組が出合から去っていた。疲労困憊した様子もなく至って元気だったのだが、一体どうしたのだろうか?

06時の一ノ倉沢出合
出合あたりはてきとうに歩くが、右岸の林のなかに入っていく。沢筋に出るか出ないかのところで、右岸を登る踏み跡と沢に降りる踏み跡の分かれ道がある。ヒョングリの滝を右岸から巻くのだから沢に出ずに右岸の林を登って行ったのだが、誤りだった。上り詰めていけば踏み跡は無くなり、1ルンゼへの下りが現れた。どうも降りれないようだったので、来た道を戻り沢筋を行くことにした。”ヒョングリの滝を右岸から巻くのだから”心理に騙されたのだ。本谷の沢にでたら右岸左岸を行ったり来たりしてヒョングリの滝の直下に出た。

ヒョングリの滝
滝下の飛び石で渡れるところで左岸から右岸に渡り、ツルツルした岩を登り、ブッシュ帯を登りきったところでヒョングリの滝の上側の懸垂下降ポイントに出た。なぜかフィックスロープが張ってあったが、それを頼りにクライムダウンするより懸垂下降する方が安全と判断して懸垂下降した。
本谷には雪渓がたっぷり残っていたようだ。ぐんそうさんの話では、9月だとすっかりなくなっているようだが。設計を渡りテールリッジの末端を本谷側から取り付いた。濡れていたらひやひやモノだが、乾いていれば問題なく登れてしまう。ブッシュ帯のすぐ下にはリングボルトがいくつも打たれいて雨の時には懸垂下降できるようではあった。

ヒョングリの滝上を懸垂下降した雪渓の上から見上げる衝立岩
ブッシュ帯を抜けると中央稜の取り付きまでの、それなりに長いリッジ歩きになる。ここにも、あそこにも、という具合にリングボルト(たまには現代的なハンガー)が打たれいた。やはり雨が降っている最中での下降ではひやひやモノになるのだろうと推測できた。ブッシュ帯に入り短い距離を登り詰めれば、中央稜の取り付きになった。
一休みを入れながら準備をし、後から来たパーティと雑談をし、登り始めた。今までなら登る前は緊張しているのだが、場慣れしてきたのか?
08:10に取り付き、13:00に終了点の衝立岩の頭についた。何ピッチにしたのかよく覚えていないが、上半部では60mロープいっぱいにリードロープを伸ばした。

見下ろす中央稜とテールリッジ、烏帽子沢スラブ
終了点で一休みをして、北稜の下降路へ向かった。6回の懸垂下降でコップスラブ下の略奪点につく、長いデプローチの第1部だ。
頭から北稜を数分歩くと一つ目の懸垂下降点が見つかった。谷川らしからぬ、fixeのしっかりとしたものだった。ラペルリングに普通のカラビナでないラペル用のものまでついていた。岩が露出していたのでわかりやすい下降路だった。
2回目の懸垂支点は立木にロープスリングとカラビナ、谷川らしいものだった。下降路も露出した岩だったのでわかりやすかった。
3回目の支点は笹薮に入った立木だった。トポではここから40m降り、右下に少しトラバースしたところに次の懸垂支点があるとのことだが、ここで迷ってしまった。笹薮が深かったので、下降路がどこからよくわからなかったのだ。
まっすぐ下に懸垂下降をしたのだが、藪が深すぎのうえにまったく踏み跡らしきものもなく降りるために藪を踏むという作業をしなければならなかった。可能性を感じなかったので、そこから登り返しをした。時刻は14:30ごろだったが、陽は白昼のものでなく赤みを帯びた、夕暮れに向かうような明るみだったのが、気分的にそわそわさせてた。「あれ、どーしようか。」
気を取り直して、藪が若干薄くなっているところを選んで、右下方向に降りていった。藪が薄くなった理由が、降りている途中で分かってきた。水の流れ路なのだ。自然にできたものか、人の踏み跡が削れてできたのか、定かではないが、降りていく路としては至極理に叶ったことだと思った。20m近く降りると細めの立木に作った簡単な懸垂支点が見つかった。そこまでは右下方向に、そこからは真下に降りるようだったので、ロープダウンのやりやすさを考えて、短いがピッチを切ることにし3回目が終わった。
4回目は真下に降りていって、20mで次のポイントが見つかった。おそらくこれがトポにある4p目の20mの懸垂ポイントだと思われた。この支点は露出した岩肌にリングボルト2つとペツルのブリーユのようなハンガーで作られていた。この支点を5回目として下降を真下にしていくと20m程度で、ちょっとしたテラスの先に赤いフィックスロープが見えた。しかし、見落とす可能性は十分にあった。その位置から真下は岩が露出して懸垂下降しようと思えばできてしまうからだ。下に気を取られていたら、陽が落ちて暗かったら、見落とす可能性がある。
赤いフィックスロープをたどり降りていくと、コップスラブへ降りるための懸垂下降支点が見つかった。しっかりとした立木にロープスリングでできたしっかりとしたものだった。6回目の懸垂は40mの空中懸垂をしてスラブ帯に足がついたが、7回目の支点を探して降りていったら50m強のところに見つかった。50mロープならばこの支点までは届いていないと思う。

コップスラブへ降りる空中懸垂
トポでは20mと書いてあるが、実際は30m強はあった。略奪点の少し上の平地について、北稜の下降路が終わった。トポでは6ピッチとなっていたが、実際には7回だった。3p目4p目のところが不明瞭だった。笹薮が鬱陶しく下降路が見辛かったあたりだ。明るいうちに降りられたのだが、陽が傾斜し始めたトワイライトタイムでは、視認性が落ちる、気持ちが焦っている状態で、不明瞭な3p目4p目はアブナイと感じた。
略奪点で一休みして16:00になった。あと2時間もすれば、陽が落ちて暗くなる。残ったデプローチは衝立前沢の下降と本谷の雪渓渡り、ヒョングリ滝の下降、とそれなりにあった。ヒョングリの滝下まで降りればひと段落するので、それまでの過程で時間を短縮できる衝立前沢の下降は急いだ。20mの懸垂下降ポイントまでつくと、雪渓に問題があった。

衝立前沢と本谷の出合
雪渓が口を開けていた
沢水のおかげで雪渓の末端下側が削られ、ぱっくりと口を開けていた。どうやって雪渓に上がろうか、と思いながら近づいていった。雪壁をステップを作って登ろうかと思ったが、沢の右岸から回り込めば飛び移れそうだったので、そうした。

本谷の雪渓に飛び移る
本谷の雪渓を登り返すのには、苦労した。左手でハンマーのささやかなピックを突き刺し、右手で雪渓に刺さりもしない木の枝でなんとか登り、ヒョングリの滝上の懸垂地点に上り詰めた。そこで会ったのは、アプローチのときに会話をしたパーティだった。「いや、雪渓に移るの見てたけどヒヤヒヤものでしたね?」「怖かったす」社交辞令かもしれないが、そんな会話が気持ちを楽にした。
懸垂下降路を登り返し、ヒョングリの滝を下ったところで、16:30を過ぎていた。もう要所はこなしたので休憩を入れて気を引き締めて本谷を下った。二度三度ふらつきこけたが大事にならなかった。
出会いについたのは18:00前で明るいうちに戻れたことに安心した。やはり谷川は面白かった。ルート自体でなく、アプローチデプローチのこなすべき課題をこなすのが楽しかった。

また来シーズンだね、一の倉沢。
今回の山行では、目的の衝立岩北稜の下降路をトレースできたのに満足している。衝立岩中央稜のルート自体には困難さを感じなかったが、雲稜ルートやダイレクトカンテであればそれも魅力だろう。