谷川岳 一ノ倉沢 コップ状岩壁 緑ルート偵察

谷川岳 一ノ倉沢
■日時 6月19日(日)

■場所  谷川岳 一ノ倉沢

■目的  アルパインクライミング

■メンバー 曽山、飯田(記)、田名網

■天候 曇り のち 大雨

■タイムテーブル
04:00 土合駅
05:00 ベースセンター
06:00 出会
07:00 衝立前沢
08:00 略奪点
09:00 コップスラブ
10:00 コップ状岩壁 緑ルート取付
11:00 支点リボルト作業開始
12:00 下降(懸垂)開始
17:00 略奪点
18:00 衝立前沢
19:00 出会
20:00 ベースセンター

■記録

東京緑山岳会には会として掲げている目標がある。会が開拓した緑ルートの整備、再開拓というものだ。
これは以前から掲げてなかなか実行に移せていなかったのだが、いよいよ今回、谷川岳は一ノ倉沢コップ状岩壁にある緑ルートから手を付けてみようということになった。
ルートの整備といっても、いまどきハーケンやジャンピングを打ち直すというのもどうなんだ?ということで、ノウハウは全くなかったがハンガーボルトでのリボルト作業をいきなりアルパインルートにて実践するという計画だ。

どうやらほぼ夏至にあたる時期のようで、土合駅の外で寝ていたが4時頃にはだいぶ明るい。土合で起きたときに外が明るいと寝坊した気になる。
出会から見える一ノ倉沢を見て明らかに雪渓が少ないということがわかる。

雪渓の少なさに不安な気持ちになる

雪渓の少なさに不安な気持ちになる

衝立前沢までの雪渓はボロボロの状態で、噂には聞いていたがこの時期でヒョングリの滝が出現していた。既に夏道の状態である。滝を高巻き、懸垂してから衝立前沢に入っていく。

雪渓は既にボロボロ

雪渓は既にボロボロ

衝立前沢の入口。まるで遮るように大木が横たわる

衝立前沢の入口。まるで遮るように大木が横たわる

衝立前沢を下降したことはあるが、アプローチで登るのは今回が初めて。以前、下降したときは衝立岩で壁ビバークした翌日、亡霊のようにこの沢を下りた。だからあまりよい印象はない沢だ。涼しいのはいいけどアプローチとしてはやっぱり悪い沢だな、と思う。

行きはよいよい。帰りは怖い

行きはよいよい。帰りは怖い

一時間ほど前沢を詰めると略奪点に到着する。ここからいよいよ曽山さん以外は未知の領域であるコップスラブに入っていく。のだが、コップスラブまで踏み跡を辿っていけばいいものを間違って悪いルンゼを詰めてしまった。ロープを出すことになってしまい一時間ほどロスしてしまう。

このすぐ手前に踏み跡あり

このすぐ手前に踏み跡あり

そして見えてきたコップ状岩壁。コップスラブを真っ直ぐに詰めていく。コップスラブはあくまでアプローチでありロープは出さない。しかし傾斜がゆるいとはいっても場所によっては最大Ⅳ級あるようで、確かにちょっと怖いところもあった。上がるにつれスラブが微妙に立ってくるようで振り返って上がってくる二人を見ると「うわぁ、なにフリーソロしてんの?この人達・・・」って思った。十分に死ねるスラブ。

奥に見えるコップ状岩壁。手前がコップスラブ

奥に見えるコップ状岩壁。手前がコップスラブ

ボロボロの懸垂支点。こんなものでも帰りに頼ることになる・・

ボロボロの懸垂支点。こんなものでも帰りに頼ることになる・・

十二分に死ねる。コップスラブ

十二分に死ねる。コップスラブ

コップ状岩壁の取付に到着する。出会からここまで約4時間。ベースセンターからなら約5時間。アプローチの遠さから殆ど人が来ないのもわかる。
壁を見上げるとやはり脆そう。左からコンタクトルート、緑ルート、雲表ルートの三本が確認できた。コンタクトルートにはいつからあるのか、朽ち果てたアブミがハング直下に不気味にぶら下がっていた。緑ルートと雲表ルートを比較すると、雲表ルートは壁の弱点を突いておりフリーでも5.10のグレードで登られているのが頷ける。対して、緑ルートは逆に壁の強点をダイレクトに人工突破している。ディレティッシマ(直登主義)の精神だったんだなぁと思う。いちおうフリーで登れるか?オブザベしてみる。支点状況、壁の脆さを無視したとしても相当なボルダームーブになることは間違いない。いつかトライする日が来るだろうか?(来ないかな)

コンタクトルート。ぶら下がったアブミはいつから?

コンタクトルート。ぶら下がったアブミはいつから?

緑ルート。鉄の時代。岩壁の真ん中を直登する

緑ルート。鉄の時代。岩壁の真ん中を直登する

今回の目的はあくまで壁の偵察であり、登攀ではない。ここからは支点整備の実践と、下降路の整備を兼ねて懸垂支点をハンガーボルトで設置していく。
まずは緑ルート直下の取付きにセルフビレイ、懸垂下降用のボルトを設置することにした。今回、ボルト設置用に用意した道具は以下。

ハンマードリル(マキタの14.4V)
ドリル用ビット(10mm)
ハンガーボルト(ペツル製)
ハンマー
ブロア
スパナ
ブラシ

まずは支点設置箇所の選定から、なるべく凹凸の少ないフラットな面を探してドリルで下穴を空けていく。削りカスが溜まってくるのでブロアーとブラシで掃除をしながらの作業となる。
穴が深くなるにつれ岩質が硬くなっていく。力まかせにドリルを押し込んでいったらビットの先端が焼けてしまい、全く掘れなくなってしまった。ビットは替えを含めて2本しか持ってきていなかった為、2本目からは連続使用を控えて慎重にビット先端の熱を見ながら作業する。

左が通常のビット。右が焼けて磨耗したビット

左が通常のビット。右が焼けて磨耗したビット

下穴を開けたらボルトを打ち込んでいく。このボルトの長さに合わせて浅すぎず深くなり過ぎないように下穴を空けないといけない。ボルトを打ち込むハンマーを大きめのハンマー(ブラックダイヤモンドのヨセミテハンマー)を使用した為、楽に打ち込めた。
最後に打ち込んだボルト先端のネジ穴にハンガーをナットで締めて固定する。今回はスパナを使って力いっぱい締めた。トルク指定で測ろうと思ったら専用器具が必要となるが、これは要検討だろう。

一時間ほど掛けて2本のペツル支点が完成した。残置用のロープスリングと捨てビナを取り付けて一つ目の懸垂支点が完成。

完成した一つ目の懸垂支点

完成した一つ目の懸垂支点

懸垂支点が完成したところで、ここから下降を開始していく。今では殆ど登る人はいないコップ状岩壁だが、曽山さんの話では昔はコップ状岩壁に取り付いたら殆ど上まで抜けていた為、コップスラブを懸垂するということはなかったらしい。なのでコップスラブの懸垂下降には何ピッチ必要となるかがわからない。持ってきたハンガーボルトは全部で7本。曽山さんがバックアップとしてリングボルトを4本用意してくれているが、足りるのか?不安だった。
下降用のロープは60mを使用していたが、アルパインルートでは標準的と思われる50mロープに合わせて45m程度でピッチを切ることにした。
二つ目の支点作成作業は一つ目と比較して岩質が柔らかくスムーズに穴空け作業が進んでいく。直線的な懸垂方向にある、出来るだけ安定して立てるテラスを選んで、設置作業を続けていく。

二つ目の懸垂支点

二つ目の懸垂支点

三つ目の懸垂支点作成に掛かるところで、残りの懸垂回数(支点作成数)と残ハンガーボルトをシミュレーションしてボルト不足が目に見えている為、リングボルトを併用しての支点作成に方針変更。ハンガーボルト設置作業の横で曽山さんはリングボルトを設置する。ジャンピング(キリ)とハンマーでの下穴空け作業は大変そうだが、さすがヨセミテハンマー、持って上がるには重いがこういうときには頼もしい。しかし、この支点作成中に恐れていた雨が降り出す。

三つ目の懸垂支点。クラシック(リング)と現代(ハンガー)の融合

三つ目の懸垂支点。クラシック(リング)と現代(ハンガー)の融合

雨に降られたコップスラブは岩肌を雨が集まって流れていき、もはや河と化す。以前から聞いてはいたがその変化はあっという間だった。コップスラブにいかに水の逃げ場がないかとうことだろう。やはり6月の谷川岳は鬼門だ。前回は北稜下降で壁ビバークするはめになったが、今回は河となったコップスラブでハンマードリルを振るう羽目になるとは。
ハンマードリルが動かなくなった為、濡れて壊れたかと焦ったが、バッテリー切れだった。バッテリー交換までに5本のハンガーボルトを打ったことになる。

河と化したコップスラブ

河と化したコップスラブ

4つ目の懸垂支点。

4つ目の懸垂支点。

大雨の中、懸垂下降を続けていく

大雨の中、懸垂下降を続けていく

4回目の懸垂下降を終えたところで略奪点付近のピナクルが見えてくる。あそこまで辿り着ければなんとかなる。が、ボルトは残り一本しかない。
来るときに見たボロボロの懸垂支点を発見する。藁にもすがる思いで、ボロボロの残置リングボルト、RCCボルトを併用して5つ目の懸垂支点を作成する。

早く帰りて-

早く帰りて-

この残置支点とミックスで支点作成する羽目になるとは・・

この残置支点とミックスで支点作成する羽目になるとは・・

まるで雪渓が伸びたようなコップ河

まるで雪渓が伸びたようなコップ河

略奪点の少し手前まで懸垂ロープを伸ばす。ギリギリ足りないがあとはクライムダウンで下りることが出来る。なんとか略奪点の踏み跡まで戻ることが出来た。
衝立前沢の下降はただの沢下りと化していた。もう全身ずぶ濡れなので膝上まで沢に浸かってみたり、滝の懸垂下降ではあえて滝に打たれてみたりした。もうやけくそだった。

衝立前沢。沢。そしてミウラー

衝立前沢。沢。そしてミウラー

沢って楽しい。滝って楽しい

沢って楽しい。滝って楽しい

そして帰りは今朝より一層崩壊が進んだ雪渓を歩いて行く。もう雪渓の下が丸見え状態なので、厚めの箇所を選んで恐る恐る進んでいく。
この雪渓が落ち着くまでは暫く一ノ倉沢は控えたほうがいいかもしれない。もっともあと二週間ほどで完全に消えそうだが。

下が丸見えの雪渓ブリッジ

下が丸見えの雪渓ブリッジ

こうしてなんとかコップ状岩壁の下降支点整備を終えて戻ってくることが出来た。しかし今回行ったのは下降支点の整備のみでありこれをアルパインのルート上で行うということは相当に骨が折れるんだろうなと思う。アプローチのことも考えると一泊は必要だろう。
7月には穂高屏風岩の緑ルート偵察に行くつもりだ。

さようなら一ノ倉沢。暫く来ないよ

さようなら一ノ倉沢。暫く来ないよ


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