三ッ峠

■日 時:17/06/20
■場 所:三ッ峠
■目 的:アブミ トレーニング
     ハーケン・ジャンピング トレーニング
■参加者:タナミーさん・みっきー(記)
■天 候:晴れ
■記 録:
久し振りの三ッ峠は、平日のアブミルートと言う事もあり殆ど誰もおらず、静かな岩場でゆっくりと練習が出来ました。

今回は、「アパッチハング左」と言うシングルピッチと「直登カンテ」と言うマルチピッチルートを2P目まで登りました。

僕はアブミは初めてで、一緒に行ったタナミーさんに基本から丁寧に教えて貰いました。
当初はケイビングなどのSRTでのアッセンディングやダブルロープでの自己脱出に近い技術を予想していましたが、実際はかなり感覚の異なる技術で新鮮でした。

チェストアッセンダーやフリクションヒッチに完全に体重を預けるアッセンディングとは異なり、アブミ登攀では如何に力を使わず安定してラダーに座れるかと言う事がまず重要になりました。
これが確実に出来ないと、直ぐにパンプして動けなくなってしまいそうです。

また、フィックスロープを使う前提のアッセンディングとは異なり、アブミ登攀では一度のムーブで登る距離をクライマーがコントロール出来ません。
既成ルートの場合アブミを掛ける支点の位置は決まってしまいますし、自分でハーケンを打つにも必ずしも都合の良い位置に適当なリスがあるとは限らないからです。
ですから、高いステップに足を乗せた場合でもバランス良く体を伸ばして距離を出せる事がとても重要でした。

ラダーに安定して座る技術を”巻き込み”、ラダーに立ち上がり距離を出す技術を”立ち込み”、と呼ぶそうなのですが、この2つの「込み」は必須の技術でした。

またこれらの技術は、スムーズに楽に行えるだけでなく、余計な振動や衝撃を発生させずに行えなければならないと強く感じました。
ハーケンやリングボルトなどそもそも使う支点の強度が低い上に古い残置を多用するアブミ登攀では、如何に支点の見極めに長けたとしても支点崩壊のリスクに関しては運の要素が少なからずある様に思います。
そこを如何に抑えるか…、大雑把な見た目とは裏腹に繊細な技術だなと感じました。

今回、何よりも興味深くまた戸惑いもしたのは、支点に対する考え方が他のクライミングジャンルとあまりにも違う事です。

僕が今まで経験してきたクライミングでは、支点に対して何よりも求められるのは確実性でした。
フリー・アルパイン・アイス・ウォーター…、どのクライミングも支点はその状況で可能な限りの確実性、つまり崩壊しないと言う事を求めてとります。
怪しい支点は極力使わない、もしくは分散やバックアップを施してリスクを実用レベルまで軽減する、等々。

ところが、アブミ登攀では、怪しげなホキたハーケンやリングボルトを積極的に利用します。
そしてそこに、自分の体も運命も全てを預けてブラ下がる訳です。
勿論、支点が使用に耐えるかの判断能力は極めて重要ですが、見極めたところで他に選択肢は無いと言うシチュエーションもかなり多そうな印象です。
これは現代に於いては凄く独特な技術体系であると思いますし、ある意味受け入れ難い状況でもあります。
ただそれ故に、アブミ登攀には、自然の中で行われるアクティビティの持つリスクを濃縮して端的に意識させてくれる様な際どい潔さがある気がするのです。

フリークライミングやエイドクライミングがそうであった様に、アブミ登攀の技術や考え方が見直されたり更なる発展を遂げたりすると面白いなと感じます。

今回は、ジャンピングを使って効率良くリングボルトのホールを穿つ練習や、ハーケンを打つ練習も行いました。

リングボルトの設置には、その仕組みからどうしても岩に回復不能な加工をする必要があります。
当然、その練習にも同じ問題がついてまわります。
登攀の要となる作業だけにトレーニングは必須ですが、自然に対して現状復帰の不可能な行為を行うと言う慎重さを絶対に忘れてはいけないと感じました。
どの様な練習方法が適切であるのかは未熟な僕にはまだ分からない部分が大きいですが、少なくとも練習する場所や対象には細心の注意を払い、その数を出来る限り必要最小限にとどめる事はとても大切だと考えます。

ハーケンは独学で打っていたので、改めて基本を学ぶ事が出来てとても有り難かったです。
ハーケンが歌うとも称される、正しく入った時の岩全体に共鳴する様な打音の響きは本当に美しいです。
岩に穴を穿ち回収も出来ないとボルト類と、自然の岩の構造を上手に利用し回収も可能なハーケンが、メディアや一般の理解として混同されているのは良くない事だと僕は思います。
回収の出来るリムーバブルプロテクションの一つとして、ハーケンはもっと見直されて良いギアだと思います。

先日の肩絡みトレーニングに続き、古くから今に受け継がれる技術を学びました。
ほんの入口を覗いた程度ではありますが、共通して感じた事があります。
それは、効果が不完全であるが故に行為も意識も繊細になる、ならざるを得ない技術だと言う事です。
この事は、登山者自身をより注意深く敏感にしてくれる様に思います。
また、その不完全さ故に応用が効き易い技術でもあると感じます。
今ある物で今こなさねばならない事をこなす事を可能にする、要求される事も多いけれど懐の深い技術であると思いました。

古くから受け継がれる技術は、今に残るには残るだけの価値があるのだと思います。

より特化しより確実性を高める、ギアの使いこなしに寄った現代の技術。
確実性に劣るも幅広い応用が可能な、使う者の手技に寄った往年の技術。
そのどちらをも学び、バランス良く身に付ける事が大切なのではないかと思います。

三つ峠山荘から、富士の絶景!

三つ峠山荘のテラスで一休み。

直登カンテの1P目を登るタナミーさん。

直登カンテの2P目をリードするタナミーさん。

アパッチハング左。かぶったカッコ良いライン!

新調したアブミ!

ジャンピングのトレーニング。削った石の粉を掻き出す耳掻きなど、小物の選定にも経験が活きる。

しっかりと極る時の、ハーケンと岩との共鳴の響きは本当に美しい!


投稿する

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)