杓子岳


■日時 5月5日(金)~7日(日)

■場所  杓子岳

■目的  雪稜

■メンバー  ヨネさん、タナミー、つっきー(記)

■天候  5/5晴れ 5/6雨 5/7晴れ

■タイムテーブル

5/5 07:15 猿倉荘 > 10:40 小日向のコル > 14:00 樺平

5/6 雨のため樺平に停滞

5/7 02:00 起床 > 05:00 樺平 > 08:40 双子/杓子尾根のJP > 11:00 杓子岳 > 12:00 杓子岳-丸山稜線の最低鞍部 > 14:50 白馬尻小屋 > 15:30猿倉荘

■記録

今年のGW山行は、白馬山域の地形的理解を深めるという目的で、白馬三山の一つ、杓子岳双子尾根となりました。双子尾根についての認識が全くなかったので、色々な記録を調べてみると、雪山クラシックコースで、初級バリエーションとの事。展望良好で、雪壁、雪稜を楽しめるという事で、期待が膨らみます。
しかし、GW直前に、下山ルートで利用予定の白馬大雪渓で雪崩が発生し、1名の方が行方不明となる事故が起きてしまいました。

下界では桜が咲き、春を通り越して、夏日を記録したとニュースでは伝えているのに、遥か上空には寒気が入り込んでいました。2000mを超える山の上では吹雪になって、何十㎝もの積雪になっていると、山荘のブログが教えてくれていました。春山と言っても、稜線上では厳冬期と変わらない厳しさがあり、雪崩のリスクとは常に隣り合わせだということを、思い知らされ、
肝に銘じました。

スケジュール的には天気さえ良ければ、1泊2日で行ける行程で予備日1日とし、結果的に、この予備日1日があったおかげで、悪天候のため、中1日停滞をしても、精神的に余裕を持つことができました。
悪天候の中での停滞も初めて体験し、更に、ラジオやスマホでの天気予報と、実際の山中での天気の変化の様子の違いや、時間差があるということも学びました。

当初、5名参加の予定でしたが、諸事情により、タナミーさん(L)、ヨネさん、自分の3名となりました。

5月4日、夜、都内を出発し、途中ハプニングがあったものの、深夜2時半頃、白馬の道の駅到着。GWということで、パーキングはなんと満車。なんとか駐車できるスペースを見つけ車中泊。ヨネさんは軒下で寝袋に包まり野宿。5日は朝6時起床し、すぐに猿倉の駐車場まで移動。朝方は冷え込み、多少雲は多めながらも、5月らしい爽やかなお天気となりました。猿倉の駐車場は予想に反して、意外と空いていました。GW後半という事もあるでしょうが、やはり、雪崩事故の影響で、山行計画を変更した方も多かったのではないかと推測されました。

共同装備等を振り分け、ヨネさんがビーコンを持ってきて下さり、お借りし装着し、身支度を整え出発。猿倉荘のテラスで、遭対協の方から雪や、雪崩の状況、双子尾根に他のパーティーが入っているかなど、いろいろ貴重な情報を教えていただきました。

猿倉荘裏の急斜面から登り、林道に出て大雪渓方面に向けて歩き始めるも、鑓温泉の分岐の標識を見落とし、少し行き過ぎてしまい、分岐まで戻り、猿倉台地へ。猿倉台地は、緩斜面が続き、所々に目印のテープも。朝から気温が上がり、雪もかなりのザラメ状態。BCのスキーヤーはどんどんペースを上げ上部へ。我々も、小日向のコルを目指して行くも、ザックの重さと、寝不足からくる疲れで自分のペースが全然上がらず、パーティー全体の足を引っ張ってしまう始末。見かねたヨネさんとタナミーさんが自分の背負っていた共同装備分をそれぞれ担いでくださることに。このままのペースでは、幕営予定の樺平までたどり着けない可能性もあったので、申し訳なかったのですが、甘えさせて頂きました。

小日向のコルにあがると白馬鑓ヶ岳と杓子岳が見える

小日向のコルからはいよいよ、双子尾根を登って行きます。雪稜が続いているものの、気温が高く、かなり雪解けも進んでいるようで、所々ブッシュも見えていました。トレースがバッチリついているので、高度感はありましたが、さほど怖さを感じることなく、トレースを踏み外さないように気をつけながら進んで行きました。登っている最中も、あちこちの斜面で小規模な雪崩がいくつも発生していました。

双子尾根上はクレバスが開いていた

途中、クレバスが大きく口を開いている箇所があったり、シュルンドにズボッとはまったり、かなりきわどい斜面をトラバースしたりしながらも、無事に樺平に到着。

樺平と双子尾根/杓子尾根のJP

樺平は杓子岳山頂に向かって、右手に長走沢、左手に杓子沢に挟まれた、広大なコルで、大きな岳樺?の木が1本だけ立っていて、本当に絵になる風景でした。しかも、木の根元に、きれいに整地され、風防壁もあるテントサイトが残されていたので、有り難く使わせてもらいました。テント設営後は、快適なトイレを作り、風防壁を更にもう一段高くし、北西からの強風に備えました。

樺平で幕営となった その近くでイグルーを作るヨネさん

 

テントの中で、地道に水作りをしている間、ヨネさんは、一人で黙々とイグルー作りに励んでいました。スノーソーで雪のブッロクを切り出し、一つ一つ積み上げ約3時間くらいは格闘していました。最終的には、天井部分をうまく閉じるように積み上げることが難しく、残念ながら、完成には至らなかったようでした。しかし、重いザックを背負い登ってきて、疲れているはずなのに、ヨネさんの集中力、気力、体力には感心しました。

夕食は、チューハイで乾杯し、ヨネさん特製のローストボークとチーズ、フランスパンの前菜から始まり、豚の生姜焼きと豚汁を食べ、大満足でした。

食後は、ワインを頂きながら、翌日の行動予定についての話し合いとなりました。2日目は、当初、天気予報では寒冷前線の通過に伴い、お昼頃より雨とのことだったので、早朝に撤収し、そのまま下山をする方向となりました。下山するにしても、5通りもの選択肢があり、それぞれのルートの、良い点、悪い点について意見を出し合い検討しました。最終的には、双子尾根を引き返し、小日向のコルまで下り下山するということで決定しました。
しかし、時間を追うごとに、天気予報での雨の降り始めの時間が早まっていき、最終的には、朝9時頃となってしまいました。まだこの時点では、とても穏やかな天気で、風もなく、寒くもなく、満天の星空が広がっていました。杓子岳を背にして、対面には、八方尾根のスキー場の明かりが見え、八方尾根から唐松岳へ伸びる稜線が闇の中に浮かび上がっていました。

2日目の早朝撤収に備え、早めの就寝となりました。静寂な夜の間、時折、ゴッーという風の音のような、地鳴りのような音が聞こえていました。おそらく、雪崩の音だったのでしょう。昼夜関係なく発生するのだということがよくわかりました。
深夜0時を過ぎた頃から、風が強く吹き始めていました。しかし、それほど寒さは感じませんでした。
早朝3時に起床し、まずは温かいお茶を飲み、体を目覚めさせ、朝食のうどん作りに取りかかりました。朝食後、外に出てみると、とっても綺麗なモルゲンロートが白馬の山々を染めていて、誰もいない樺平に我々のテントが一つだけという贅沢な空間に、とても穏やかな時間が流れていました。
しかし、この時すでに、白馬三山には西からの雨雲がかかり始めていました。朝5時過ぎには雨がポツポツ降りはじめ、天気予報よりも3時間も早く、朝6時には本降りの雨となってしまいました。雨の中、ずぶ濡れで撤収するのは嫌だよねということと、3日目の晴天は約束されていたので、早々に、2日目は停滞とすることが決定。

樺平は携帯の電波がよく繋がる山域だったので、会と家族へ、停滞する旨の連絡を入れ、再び、3人ともシェラフに潜り込みお昼まで爆睡。自分としては、この停滞で体力の回復ができ、非常にいい休息となりました。

午後、ヨネさんは偵察に行ってくると言って、雨の中、出掛けて行きました。ヨネさんはどんな状況の時でも時間を有効活用していました。
タナミーさんと自分は、天気予報をチェックしながら、のんびりお茶タイム。白馬の山中で雨の中閉じ込められているというのに、関東地方は猛暑日になっていると、ラジオのニュースが伝えていました。寒冷前線が通過する時はかなり強い暴風雨となり、天気の移り変わりを身をもって経験できました。
結局、この日、夕方6時まで12時間、ずっと雨が降り続きました。ずぶ濡れのヨネさんが戻ってきたのは、もう夕方に近い時間でした。樺平の裏庭で大規模な雪崩の跡があったことや、第6の下山ルートを見つけてきたと話していました。

2日目の夕食は、前日同様、ヨネさん特製の前菜と、ウインナー、キャベツとアンチョビのソテーに、ご飯、お味噌汁でした。

夕食後は、ヨネさんから、無駄なものを多く持ってきていないか持ち物検査を受けました。自分ではかなり軽量化してきたつもりでしたが、まだまだ省けるものや、軽量化できるものもあり、パッキングの仕方も、もっとカサを減らす方法を学びました。

3日目も早朝起床で簡単な朝食を食べ、テントを撤収し、早朝5時出発。

樺平からジャンクションピークへ

 

この日は朝から快晴でした。樺平から上部はかなりの急斜面が続くので、フラットフッティングで慎重に登ります。自分は、ついつい山側の爪だけを使って登ってしまう傾向にあるので、再三注意を受けました。

クレパスは慎重に

初日に比べ、2日目の風雨によって更に雪解けが進んでいて、トラバースで進めるはずの箇所が途切れてしまっていた為、非常に脆い岩場を登り尾根に上がらなくてはいけない場所もあり、
ロープで確保してもらいましたが、落石も頻繁に起こり、かなり緊張しました。
残雪期のルーファイは、その時の雪の状況によって、難しさが大きく変化する為、パーティーでルートを相談し合いながら進む事も大事だということを学びました。

双子/杓子尾根のJPあたりから杓子岳を見上げる

杓子尾根とのジャンクションピークを過ぎ、もう一段上のピークで、ヨネさんから、リーダーのタナミーさんに対して、時間的にみて、このまま山頂まで行くのか、それともここから下山するかの判断を仰ぐ場面があり、タナミーさんもどう判断すべきか少し迷っているような様子でした。

すると、ヨネさんが、「ここまで登ってきたんだから、頂上まで行きたいでしょー? トップを替わるよ」と提案がありました。今回は、初日からずっとリーダーであるタナミーさんが、トップで登ってきてくれていました。ヨネさん曰く、「必ずしも、リーダーがリード(トップ)である必要はない、リーダーは適材適所にメンバー配置をすればいいんだよ」とのこと。自分も、リーダー=リード(トップ)とずっと思い込んでいたので、まさに目から鱗でした。言われてみれば、まさにその通りで、納得でした。

 

JPから杓子岳の間は岩峰がかなり露出していた

ここから先は、更に斜度が増し、岩稜帯が露出している部分もあり、ヨネさんトップで、危険な箇所は、ロープを繋いでもらい進みました。
トップのヨネさんと、同じペースで登り、常にロープを張った状態にしておく、岩稜帯では岩と岩の間を登るように(滑落した場合に、岩を支点とするため)と教えていただきました。
緊張が続くルートの途中、目の前に雷鳥のつがいが現れ、冬毛の真っ白なモコモコした姿に癒されました。

杓子岳山頂直下 雪壁を登るヨネさん

最後の雪壁を登り終え、午前11時に杓子岳に登頂。360度の大展望で、残雪期の絶景を堪能できました。

杓子岳の山頂

このご褒美があるから、頑張って登れるのですよね。山頂は強い西風が吹き付けていたので、記念撮影をし、早々に下山開始。

最低鞍部へ向かう 主稜線の立山側は雪が飛ばされてガレ場が

 

大雪渓を降る

下山ルートは、白馬大雪渓を下るため最低鞍部まで夏道を下り、ここでロープを繋ぎ、小雪渓を下り始めました。注意点として、雪崩のリスクを少しでも減らすため、ヨネさんの踏み跡から絶対に外れないようにする事、3人とも等間隔で、常にロープをピンと張った状態で歩く、一直線上に並ばず、くの字型の隊列にするという事でした。

大雪渓は雪崩後があちこちにあった

大雪渓の下り始めは、比較的傾斜が緩く、さほどコンテで歩く難しさは感じませんでしたが、途中からどんどん傾斜がキツくなり、ロープの中間点で歩いていたため、トップのヨネさんの下るスピードに自分が着いて行けず、ロープで体は前に引っ張られるのに、足が間に合わなくなり、2回ほど滑落しかけ、タナミーさんに止めてもらいました。(実は中間で歩くのが一番難しいと、後で聞きました)
大雪渓には至る所に大規模なデブリが。本当にいつどこで雪崩が発生してもおかしくないんだという事を実感しました。杓子尾根側から時折、落石も発生していました。デブリの間を縫うような、ヨネさんの絶妙なライン取りで無事に安全地帯まで下ってくることができました。

白馬尻で白馬主稜と小蓮華尾根の取り付きや、猿倉台地と長走沢の位置関係を確認して、あとはひたすら猿倉荘に向けて歩き続け、夕方4時に無事下山する事ができました。

帰りは日帰り温泉の八方の湯で、白馬三山を眺めながら温泉に浸かり、3日間の汗を流し、帰路につきました。GW最終日の中央道はガラガラで予想よりも早く帰宅できました。

今回の山行では、リーダーとして常に冷静で理論的に的確に判断しパーティーを引っ張って行ってくださったタナミーさんと、ご自身の豊富な経験に裏打ちされた知識、技術を惜しみなく教えてくださったヨネさんのおかげで、無事に杓子岳に登頂することができ、雪山における基本的な生活術、天候悪化の場合の計画変更の判断方法や、パーティーの中での役割分担、危険箇所でのコンテでの登攀方法など、非常にたくさんの事を学ぶことができました。
本当に、ありがとうございました。

■コメント 記:タナミー

白馬岳主稜に登りたい。けれども自分にとって行ったこともない山域なので、周辺山域の概念理解という目的で、杓子岳を計画しました。

リーダーとしての冬山は、ほぼほぼ初めてでしたが、パーティの行動を決定するのは、なかなか難しいものだと感じました。ヨネさんにリーダーとしての”いろは”を教えてもらうという、かなり良い待遇に恵まれた山行でした。ヨネさんには、感謝します。

白馬岳主稜に向けて周辺山域は理解できました。晴天を狙っていけば問題なくいけそうだ、という感触を得ました。しかし条件が良ければ、の話なので、荒天のなか・雪の状態が悪いなど・恵まれた条件でないときでもこなせるような山の総合力を身につけたいです。登るならトレースなしのときがよいですから。


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