八ヶ岳 阿弥陀岳 南稜/北稜
第一岩峰取り付きにて

平成16年2月7日(土)  天候:曇りのち霧/強風
  メンバー:江原(記録)、浜野

前から行きたいと思いつつ結局行かずにいた阿弥陀の南稜に出かけた。今回は土曜日に南
稜を、日曜日に北稜を登る計画。両ルートとも初級ルートとして評判が良いので、同行の浜野
には楽しみつつも良いステップになるだろうと考えた。

8日(金)23:54新宿駅発。3:30茅野駅到着。電車内はスキー、スノボに行く客が多くいつもより
華やかだった。その後、茅野駅で仮眠。6:00予約したタクシーで船山十字路へ向かった。船山
十字路到着6:40。駅を出たのは他のパーティより早かったが船山十字路には先行の2パーテ
ィがいて共に南稜を目指すようだった。タクシーから見えた八ヶ岳は重たそうな雲にすっぽりと
覆われていた。

駅で身支度を済ませていたのでそのまま出発。荒廃した旭小屋経由で南稜の末端に登る、7:
45。稜線に出るとちょうどそこに広河原沢からのトレースが合流していた。ここから先、立場山
までは単調な樹林の登り、下枝がザックに引っかかってうるさい。が、冷えた空気の中、雪を
かぶった針葉樹林を歩くのはいい雰囲気だった。途中1回の休憩を挟んで快調にすすみ9:25
立場山到着。休憩する場所を探すつもりでダラダラ下ると青ナギに出た、9:45。ラッセルがあ
るとこうは行かないと思う。高度を上げるにつれガスに包まれて展望はなし。少し風が出てき
た。


無名峰まではやや急登。この辺りで森林限界。快調だった浜野のペースが落ち始める頃、P1
手前のテント跡に出、ここで登攀具の用意をした。気温-15度、風が強くなってきた。同じペー
スで歩くのは我々を含め3パーティ。ベテラン1人と若手2人の社会人パーティ、十字路から一緒
の学生パーティ(4人)、と我々。P1、P2は左を巻きつついつの間にか通過した。続くP3は基
部を大きく左に巻いてルンゼから取り付いた、11:40。ルンゼまでのトラバース、ルンゼ内には
新しめの固定ロープあり(ルンゼ内ではところどころ埋まっている)。また固定ロープの支点は
ぺツルのボルト、整備されているなぁという感じ。取付きで先行を待った後(先行は社会人パー
ティ、我々は2番目)、ザイルを付けてルンゼ通しに2ピッチで稜線に出た。ルンゼ内は氷と圧
雪、ふくらはぎは疲れるがアイゼンが効いて快適だった。ただ目いっぱい伸ばそうとしたらボル
ト1本でビレイをすることになった。やや短めに切ったほうが良さそうだ。

P4基部で小休止、13:25。浜野はだいぶバテたようだが、ここまで怖がらずについてきてくれ
て感謝。P4は左側、しっかりしたバンドをトラバースした後、本峰との小さなコルへ直上した。
バンドのトラバースでは2箇所、ちょうど頭のあたりの岩がハングしている箇所がある。この辺り
も降雪直後でバンドが出てない時にはいやらしそうだ。小さなコルからピークまでは一投足。
14:00、阿弥陀岳頂上到着。難しいところはなかったがそれでも広い頂上に出ると喜びが沸い
てきた。安心したせいか冷たい風も穏やかに感じつつ、視界がきかない頂上で記念撮影。そ
の後、中岳沢経由で行者小屋へ下山。行者小屋到着、14:45。
頂上より南稜を見下ろす


阿弥陀岳南稜/北稜(浜野記)

週末を利用して八ヶ岳で充実した時間を過ごしてきた。1年ぶりの八ヶ岳である。去年は緑に
入会したばかり、登山自体ほとんど経験が無い状態だったので縦走だった。人生初の岩場で
見事にビビリ固まり、かなりカッコ悪かった事が思い出される。今回は少しステップアップして初
級バリエーションルートの阿弥陀岳南稜・北稜である。江原さんも記録を書いているが、自分も
書かせてもらう事にした。

前日夜、急いで仕事を切り上げ慌しく夜行に乗り込み、2月7日3:30茅野着。駅で仮眠を取
り、タクシーに乗って6:40船山十字路着。この時点で天気は曇り空、寝不足で足取りも重くな
んだか行く先不安になる。序盤は眠さで時々意識が遠のきながらも何故か江原さんに遅れず
歩き順調に距離を稼ぐ。

立場山はどこがピークだか分からず通り過ぎ、青ナギを過ぎた辺りから徐々に疲労感が増し
てきた。無名峰辺りでは完全にいつもの感じで遅れてしまっていたが、それでもなんとか後続
パーティーに追い抜かれずにP3を巻くルンゼの取付にたどり着いた。ここで先行パーティーが
登るのをしばし待つが、なにしろ寒い!我々は2番手だったからまだマシだったが、後続パー
ティーはかなり辛かっただろう。

ここでザイルを出してもらい2ピッチ、江原さんがトップで登る。ルンゼ内は真新しいフィックスロ
ープが張ってあったが、結構凍っていて、疲労がピークに達する頃でもあり初心者には皆が言
うほど簡単ではないように感じた。最後の登りをかなりのスローペースで歩き阿弥陀岳頂上に
着いたのが14時。なんとP3基部から2時間半もかかっていた。天気は悪いが結構な充実感。
写真を撮り下山。14:45に行者小屋に着いた。

ホキホキの体で立派に整地してテントを張りしばしくつろぐ。普段全く酒を飲まない自分だが、
一口もらって飲んでみるとなんと予想外にウマイ。これからは少量持っていく事にしよう。今日
は相当疲れたので早目に就寝。寝る前に時間があったので程良い暖かさの湯を作りプラティ
パスの水筒に入れて抱いて寝たらスゴイ勢いで眠れた。

翌朝、即席湯たんぽで快眠できたおかげで疲れは取れた。少しガスっていたが晴れ間も見え
るので、テントに不要な荷物をデポし予定通り北稜に向かう。文三郎道を少し歩き、途中で中
岳沢へと入る。雪崩の判断はまだ自分にはできないが、どうやら雪は安定しており問題ないら
しい。とはいえ冬の沢筋に長居は禁物、ダッシュで行くぜ!のつもりが、いつものごとくスピード
が上がらず江原さんから遅れまくる。

途中、稜線に上がる辺りで1パーティーを追い抜き、彼等とラッセルを交代。雪まみれの汗だく
鼻水ズルズルになって登り、ジャンクションピークの少し上に出た。いつの間にか天気は快晴。
広い尾根を少し歩くといきなり急傾斜のまばらな樹林帯に突き当たり、木登りを交えてここをな
んとか越えていく。その上の草付きが急で結構ビビッた。

突然傾斜が緩くなると目の前に第一岩峰が現れる。一番乗りである。休憩もそこそこにザイル
を結び左側の凹角から江原さんがトップで登りだす。短く切って3ピッチ、通常2ピッチで行ける
らしい。まさに雲一つ無い快晴、ビレイ中にウヒョーッと意味不明の奇声を発したくなる位最高
の気分。岩は快適で荷物も軽いため初心者の自分でも楽しく気持ち良く登る事ができた。
 ナイフリッジを過ぎた所

岩場を越えると幅50センチ程のナイフリッジが出てくるが距離は3メートル位。セカンドの自分
は江原さんのトレースもあるので安心して渡ることが出来た。ナイフリッジを過ぎた所で後ろを
振り返るとガイドブック通りの見事な絶景。ルンルン気分で山頂に着いたのが9:20。6:45にテ
ントを出てもう頂上に着いてしまった。
頂上にて

昨日とは打って変わって360度のパノラマを楽しみ、写真を撮って下山。中岳沢からさっき登っ
た北稜を見上げると2、3パーティー程取り付いているのが見える。モタモタしていると待ち時間
が長くなってしまう。取り付き一番が基本、という事を実感した。

途中、文三郎道を行者小屋へ向かう間の景色が物凄く美しかった。目に映るものは真っ白な
雪と真っ青な空、雪を被りモコモコとした樹木を見ていると穏やかな気分になる。人工的な音も
一切聞こえて来ない。じっくりと余韻を味わいながら小屋へ向かう。いつもはダッシュで下山の
江原さんも写真を撮りながらのんびり歩きである。10:00に行者小屋に到着。12:30美濃戸着、
一風呂浴びて帰京した。
帰路、阿弥陀岳を見上げる

二日間、自分なりに調子良く登れたとはいえまだまだ体力不足。そしてザイルの扱いにもたつ
く事が多々あり、それによる時間のロスが多かった。

〈コースタイム〉

2/7曇りのち強風
船山十字路6:40~旭小屋7:30~稜線7:45~立場山9:25~P3基部11:40~阿弥陀岳山頂
14:00~行者小屋14:45

2/8晴れ
行者小屋6:45~第一岩峰取付8:00~阿弥陀岳山頂9:20~行者小屋10:00~美濃戸12:30



阿弥陀岳 北稜
平成16年2月8日(日)  天候:快晴  メンバー:江原、浜野


昨日(南稜登攀後)テントで酒を飲んでいると少し降雪があったが、その後は風もなく穏やかな
夜だった。5:00に起きると薄い雲を通して月が明るかった。浜野作のスープスパゲティをたっ
ぷり食べて準備万端、北稜を目指した。出発、6:45。

文三郎道を分ける辺りから尾根通しにJPへ向かうトレースがあった。が、樹間にはまだ先行
パーティが見え隠れしていた。上部はラッセルがきついだろうし、明日は仕事だから・・・などと
心の中で言い訳をしつつ中岳沢をつめ、樹林が開けた辺りで沢から離れる。ザックが軽い上、
昨日おおよその見当をつけておいたので初めてのアプローチにしては気が楽だったが、さらに
学生らしい3人パーティがトレースを残してくれていた。途中で追いつき、ラッセルを変わったが
一登りで北稜上に出てしまった。何だか申し訳ない。

出た場所はJPからさらに一段上がったところ。目の前に北西稜、その手前にちょっと面白そう
な支尾根があって最初はそっちが北稜かとも思ったが、どう見てもJPにはつながっていないの
でそのまま稜通しに進む。潅木帯の急斜面を登るとその上で第一岩壁に出た。中岳のコルか
らの一般ルートがやけに近く見えてそのまま頂上に出てしまうのではないかと心配し始めた頃
のことだった。赤岳西壁を眺めつつ登攀準備、ルート名は知っていても実際に取り付いたこと
がないので漠然と眺めていた。今シーズン、チャンスはあるだろうか?今月末には天狗尾根を
登るつもりだがここからは小天狗の岩峰しか見えない。

登攀はそこから短く区切った3ピッチだった。登攀開始8:15。我々が最先行だった。

1P目:岩壁左の割れ目状から岩壁上へ。残置が多くどこからでも登れそうだったが一番簡単
そうなところを選んだ。(選んでしまった。)岩壁上の小テラス(下から見えていた)ペツル2つの
支点でピッチを切る。

2P目:ゆるいフェースから太い稜を経てきれいなフェース下まで。(要は何でもないとこ
ろ・・・。)ここもペツルの支点。

3P目:ガバの続く快適なフェースを5mほど登り、2~3メートルほどのリッジ。このリッジ、かわ
いいのにきれいにとがっていた。その後、見晴らしのいい稜上を登る。ハイマツが埋まってしま
っていたため反対側斜面の潅木でビレイをとった。ここまで来ると一般ルートとは話が出来る
ほどの近さ。ザイルをたたんだ後、頂上直下まで忠実に稜線をつめ、一般ルートに合流。その
ままピークへ。頂上到着9:20。

昨日とは違う、快晴の空の下、大展望と快適な登攀の名残を楽しみつつ下山した。
行者小屋到着:10:05


東京緑山岳会